J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

ONE OK ROCK、世界で戦う
最前線バンドの「PART2」

   タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」

   若者たちが「内向き」になっているという指摘を目にするようになってどのくらい経つだろう。海外に関心が薄い、外に出て行こうとしない。物事の関心が国内で完結してしまう。

   同じようなことは音楽にも言えるかもしれない。洋楽の影響力が低下するに連れて、そういう傾向が強まってきている。

   でも、それはあくまで一般論であって、そうじゃない人たちもいる。2019年2月13日、9枚目のアルバム「Eye of the Storm」を発売したONE OK ROCK(ワンオクロック)は、まさにその先頭で戦っているバンドだ。新作アルバムは、初の全世界同時発売。2月19日からは北米ツアー26本がスタートする。2017年に発売された前作「AMBITIONS」を携えたワールドツアーは、日本のアリーナツアーに始まり、北米、イギリス、南米、ヨーロッパ、アジアと回って日本のドームツアーで締めくくるという99本。新作アルバムは、その合間を縫って制作が始まったというアルバムである。

  • 「Eye of the Storm」(A-Sketch、アマゾンHPより)
    「Eye of the Storm」(A-Sketch、アマゾンHPより)
  • 「Eye of the Storm」(A-Sketch、アマゾンHPより)

数万人の合唱を想定?スタジアムクラスのロック

   ONE OK ROCKは、Taka(V)、Toru(G)、Ryota(B)、Tomoya(D)という4人組。結成が2003年、2007年にメジャーデビューした。

   2013年から海外での活動を視野にプロデューサー探しを始め、2014年からアメリカ録音、2015年に出た7枚目のアルバム「35xxxv」から全米発売も始まった。新作アルバム「Eye of the Storm」には9人ものプロデューサーが参加している。プロデューサーもエンジニアもグラミー賞を何度となく受賞しているという今のアメリカのロックシーンを支えている旬な存在ばかり。ヴォーカルのTakaは、筆者が担当しているFM NACK5のインタビュー番組「J-POP TALKIN'」(2月16日・23日放送)でこう言った。

   「前作から僕らのCDは、ずっとやりたかったフュエルド・バイ・ラーメンというアメリカのレーベルから出てるんですが、そこのA&Rがプロデューサーを紹介してくれるんです。初めまして、日本でこういう活動をしてきましたとか自己紹介から始まります。ただ、こういう曲にしたいというと、彼らはそういう曲にしてしまうんで、なるべく言わずに相手の力を引き出す。そういう駆け引きが大事ですね」

   夢や憧れだけでは済まない。アメリカにはアメリカのやり方があるという先方の要求と自分たちらしさを確立することとのせめぎあい。新作アルバムは、パンクロックに始まる自分たちのバンド活動の集大成のようだった前作から更に先へ行こうとしているように見える。数万人が集まったライブでの客席との大合唱を想定したようなスタジアムクラスのロックは今回のアルバムのスケールを一段と大きなものにしている。

   去年、ワールドツアーのファイナルとなった日本のドームツアーのステージで彼は「俺たちの活動のPART1に幕を下ろし、PART2の制作に乗り出す時期が来ている」と言った。その言葉通りの作品が完成した。

「日本のバンドの代表という意識は全くない」

   やはり、去年のドームツアーのステージで彼は自分たちの活動について「皆さんが思ってるよりも険しい道のりを通ってるんじゃないかと思ってます」と言った。

   例えば、そうやって全世界を廻るワールドツアーについてもそうだろう。2016年に静岡県浜松市の渚園に2日間で11万人を集めて行われた野外イベントを収めたライブDVDには、前作「AMBITIONS」のレコーディング風景やツアーの様子を記録したドキュメンタリーがついている。ベッドのついたバスで移動し、その合間を縫ってバンドメンバーとスタジオにこもり、外国人プロデューサーと膝を突き合わせて楽曲の内容を決め込んでゆく。

   彼が放心したように「心身ともに参っております。疲れる」とつぶやくシーンもあった。

「アメリカのツアーは三段ベッドのバスです。結構、汚いし、揺れます(笑)。揺れるから全く寝れないんで、曲のことを考えます。ヨーロッパのバスは二階建てで綺麗ですね。アメリカは環境は悪いけど、そういうバイブスがあるんで、むしろ自然体でステージには立てます。日本の方が完璧にしないといけないとカッコつけちゃうところがあるかもしれません(笑)」

   言うまでもなく日本のポップミュージックはアメリカやイギリスの音楽に影響されてきた。特にロックやジャズはアメリカが聖地だった。美空ひばりや坂本九の時代から、一度はアメリカでやりたいという夢を持たなかった人の方が少ないはずだ。YMOや矢沢永吉、DREAMS COME TRUE、松田聖子、そして宇多田ヒカルに至るまで数多い。でも、それだけの規模でツアーを廻るところまでになった例で思いうかぶのがラテン音楽のオルケスタ・デ・ラ・ルスくらいだろう。X-JAPANもそこまで"トラベリンバンド"には徹していなかった。

「バンドを組み始めた時から海外で活動をしたいという気持ちがずっとあって。その頃から思えば信じられない。でも、信じてやってきたからたどり着けた。どうやって活動していくかという真髄に迫っている感じはありますね」

   前作「AMBITIONS」はビルボード誌のロックアルバム・チャートで12位、ハードロックチャートで2位というデータもある。

   ロックバンドの総本山でどんな戦いを展開してゆくのか。彼の繊細さも備えたシャウトの美しさと歌いやすいメロディーは、日本人のロックバンドならではだと思うのはひいき目だろうか。日本語まじりの英語の歌詞を英語圏の若者が大合唱する。そんな時代が来た。

   彼は「日本のバンドの代表という意識は全くないけど、年下の人たちに自分たちが見せる背中の広さは意識して行きたい。どんどんチャレンジしていって欲しいですね」と言った。

(タケ)

タケ×モリ プロフィール

タケは田家秀樹(たけ・ひでき)。音楽評論家、ノンフィクション作家。「ステージを観てないアーティストの評論はしない」を原則とし、40年以上、J-POPシーンを取材し続けている。69年、タウン誌のはしり「新宿プレイマップ」(新都心新宿PR委員会)創刊に参画。「セイ!ヤング」(文化放送)などの音楽番組、若者番組の放送作家、若者雑誌編集長を経て現職。著書に「読むJ-POP・1945~2004」(朝日文庫)などアーテイスト関連、音楽史など多数。「FM NACK5」「FM COCOLO」「TOKYO FM」などで音楽番組パーソナリテイ。放送作家としては「イムジン河2001」(NACK5)で民間放送連盟賞最優秀賞受賞、受賞作多数。ホームページは、http://takehideki.jimdo.com
モリは友人で同じくJ-POPに詳しい。