2019年 9月 21日 (土)

ひとりの時間 川上未映子さんは、言語ではなく記憶と戯れる機会とみる

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   &プレミアム8月号の特集「ひとりの時間は、大切です。」に、作家の川上未映子さんが談話を寄せている。ひとりの時間、それは「言語からは遠く、記憶に近いもの」だと。

   クロワッサン(マガジンハウス)から派生した女性向けライフスタイル誌。アラフォー中心の年齢層に、よりよい暮らしにつながる情報を提供している。

「ひとりの時間は、人間にとって大切という以上に必要なもの。というのも、人は誰かといると言葉など何かを出し入れしていますが、サービス精神のようなものが働いてテンションが上がり、思っていることと口から出る言葉がずれていってしまう」

   ふむふむ。川上さんは、そのズレを修正して元の状態に戻す作業が必要だと説く。

「ひとりになるのは、波立った水面を真っすぐにする時間。それがないと次にまた水面を揺らせないし、自分の中から何かを出し入れできないんです」

   川上さんは最近、ヨガを始めたらしい。雑念を払って呼吸だけに集中するのは楽ではないが、身体を追い込むことで「しんどくて考えが及ばなくなる一瞬」が訪れるそうだ。思考の真空地帯...それが、真の意味でひとりの時間と呼べるものだという。

   また、仕事や子育てとは離れた人間関係や空間に身を置くことで、ひとりの時間が現れることもある。たとえば、思い出の場所を訪れた時の心持ちだ。

「誰とも共有できない自分だけの時間。それは自分しか知らない感覚や記憶にアクセスするのと似ていて、言語化できないものに触れ、その体験を取り戻すような感じ...」
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    年を重ねるとひとりぼっちは怖くなくなる

「ひとり」は怖くない

   思い出の場所、その時の光の質感や匂いを「再体験」する瞬間に、ひとりの時間が現れる。

「私たちは、孤独を特殊な状況だと思いがちです...若い頃やSNS時代の今は承認欲求が強く、ひとりぼっちが恥ずかしいだとか、他人の目が気になるけれど、年を重ねると怖くなくなります」

   そして、大事なのは「他人に評価されない自分だけの領域を持つこと」だという。

「ひとりの時間は、記憶の中に見つける一瞬かもしれないし、人生のエピファニー(突然のひらめき、悟り=冨永注)の瞬間かもしれない...それはおそらく宗教的な体験と関係していて、その瞬間を増やそうとして、人は瞑想や座禅をするんじゃないでしょうか」

   終盤は抽象論に傾き、やや難解になるが、これが彼女の実感なのだろう。

   川上さんによれば、そんなエピファニーの瞬間、つまり極めつけのひとりの時間を言葉にしようとする人たちを、詩人と呼ぶ。

「だから、ひとりの時間は、詩の瞬間ともいえると思います」

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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