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THE ALFEE、ツアー2800本
やり続けた45年の進化

   タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」

   デビュー45周年である。

   それだけでも希少価値がある上に、彼らはバンドであることを考えるとその数字の意味は更に重くなる。なぜなら、バンドは人間関係で成り立っている。ソロアーティストのように、その人が元気で続ける意思さえあればということでは済まない。

   2019年のツアー「45th Anniversary BEST HIT ALFEE 春の乱」のステージで高見沢俊彦は、「同期」のバンドとしてクイーンやKISSをあげた。そして、その後にこう続けた。

    「でも、彼らはメンバーが代わったり休止したりしてるからね。休まずに代わらずに続けているのは僕らだけです」

  • 「Battle Starship Alfee」(初回限定盤A/Universal Music、アマゾンサイトより)
    「Battle Starship Alfee」(初回限定盤A/Universal Music、アマゾンサイトより)
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不遇だったデビューからの10年

   THE ALFEEは、言うまでもなく桜井賢(B・V)、坂崎幸之助(G・V)、高見沢俊彦(G・V)の3人組だ。1973年に結成されて74年にシングル「夏しぐれ」でデビューした。作詞・松本隆、作曲・筒美京平という黄金コンビだったにも関わらず注目されることもなくシングル二枚でレコード会社の契約を打ち切られてしまった。しかも三枚目のシングルは発売中止というおまけもついている。

   レコードが出せない彼らは、同じ事務所のかまやつひろしやGARO、研ナオコのステージのバックバンドを務める傍らライブハウスで腕を磨き、5年後の79年に再デビューした。初めてのヒット曲「メリーアン」が出たのは結成10年が経ってからだった。

   つまり45年間の最初の10年はほぼ日の当たらない時間だった。

   3人は、筆者が担当しているFM NACK5のインタビュー番組「J-POP TALKIN'」(7月20・27日放送)でこう言った。

   「戦略とか全然なかったですからね。どう進むかとかも考えたことがなかった。ミーティングらしきことをするようになったのも、契約もなくなってどん底に落ちてからですよ。ライブをやっても受けないんで坂崎、物まねしろとか。それで動員が増えて行ったわけですから。どうすればヒットするかも分からないんで、ともかく打つしかない。ほとんど当たりませんでしたけど(笑)。それでも止めなかった、ということに尽きます」(桜井賢)

   そうした不遇期に事務所から「仲が良すぎる。ロックバンドなんだからもっと喧嘩しろ」と言われたという話は語り草になっている。その頃のことでも楽しい思い出になってしまう。どん底になった時にそれぞれの関係が問われるという意味では、その時期があってこその45年と言い切ってしまって良さそうだ。

   6月26日、「45周年記念」と銘打たれた25枚目のオリジナルアルバム「Battle Starship Alfee」が発売になった。全11曲中に既発シングル曲が3曲しかない。他の8曲はアルバムのための書き下ろしだ。それだけ新曲の比重が高いアルバムも近年にない。

   「45周年なんで、僕らがやってきた45年分の音楽を詰め込んでやろうと。アコースティックなものはもちろん、ハードロックにプログレ。コンセプトを決めてからは早かったですね」(高見沢俊彦)

3人でやると限界値を超える

   THE ALFEEには他には見られない特徴がいくつもある。例えば一つの曲の中で3人が交互にリードを取って歌う「スイッチヴォーカル」というスタイルがある。同じ曲で全員がリードヴォーカル。それは従来のバンドの編成ではありえない形だろう。更に、3人のコーラスがアルバムのほぼ全編を彩っている。これだけハーモニーにこだわっているロックバンドも他に思い当たらない。アルバムの一曲目の「Battle Starship Neo」はまさにそんな独自のスタイルの決定版だ。これでもかと言わんばかりのコーラスのキーの高さも飽くなきチャレンジ精神を感じさせる。

   「3人でやると限界値を超えるんです。それがTHE ALFEEの良さですね。自分が想定した以上のものになる。それを再確認したのがこのアルバムです」(高見沢俊彦)

   THE ALFEEは1973年、明治学院大学のキャンパスで結成された。

   明治学院高校の桜井賢と高見沢俊彦と都立墨田川高校の坂崎幸之助はそれぞれ別のバンドでの知り合いで、桜井が組んでいたフォークグループ、コンフィデンスがコンテストに出る前日に坂崎幸之助が誘われて参加。審査員をしていた小室等の目に留まってデビューすることになった。同じ明治学院に進学した坂崎幸之助が高見沢俊彦をコンフィデンスに誘うことで原型が出来上がった。

   「高見沢がハードロックバンドをやってるのは知ってましたけど、大学入って会った時は音楽やめちゃってたんです。何聴いてるのって聞いたらビートルズだっていうんで、じゃ、家に遊びに来ないかって連れ込んじゃった(笑)。その時に一緒にビートルズをハモって、その場で、明日ライブがあるから出てくれないかって。桜井は高見沢が入ったことをライブの当日に知ったんです(笑)」(坂崎幸之助)

   まだ未来がどうなるか、など考えもしない。音楽に没頭することしか頭にない、3人で音を出していれば、それだけで十分という音楽好きな若者たちの素顔。そのまま時間が経ってしまったのがTHE ALFEEだろう。

   45周年記念と銘打たれた新作アルバム「Battle Starship Alfee」には、そんな結成当時を愛おしむような曲が収められている。高校で出会った時のことが歌われる「はじまりの詩」や「風に消えた恋」、5年後、50周年を思い描いた「いつかの未来」。高見沢俊彦は「ここまで自分たちの歴史を感じさせるアルバムはないと思う」と言った。

大砲から飛び出すのは花です

   2019年のツアー「45th Anniversary Best Hit Alfee 春の乱」を見ていて驚いたことがあった。オープニングから小一時間、ぶっ通しで10曲以上演奏し続けたのが激しいハードロックだった。三世代に及びそうな客席も総立ちで拳を振り続けている。どう見ても還暦を過ぎたバンドのライブの光景ではない。後半にはアコースティックなハーモニーを聞かせるパートもある。かと思えば高見沢俊彦が脚本を書いた、客席が抱腹絶倒のコントも用意されている。

   何よりも高見沢俊彦の声が若い頃よりも太くて堂々としている。鍛え上げたと思われる身体の動きも逞しい。桜井賢もインタビューで「発声を変えた」と話していた。

   「3人でラジオをやってるんですけど、今年になってTHE ALFEEにはまりました、とか、二週間前に好きになりました、という声を結構聞くんです。何がきっかけなのか、こっちが聞いてみたいですよ(笑)」(坂崎幸之助)。

   45周年アルバム「Battle Starship Alfee」の中に「進化論B」という曲があった。

   「THE ALFEEにとって進化とは何でしょう」という質問に、高見沢俊彦は「還暦を迎える前は、少しはスローダウンなのかと思ったら全然そうじゃない。コンサートが刺激なんでしょう。やり続けることが進化なんだと思います」と言った。

   休みなく続けたツアーの本数はまもなく2800本。8月3、4日には幕張メッセ国際展示場で「45th Anniversary Summer Best Hit Alfee 2019 夏の乱」が行われる。

   「Battle Starship」は「宇宙戦艦」。セットも戦艦なのだろうか。坂崎幸之助は「でも、大砲から飛び出すのは砲弾じゃなくて花です」と笑った。

   THE ALFEEは、70年代の「LOVE PEACE」を経験している世代の最後の現役バンドになるのかもしれない。

(タケ)

タケ×モリ プロフィール

タケは田家秀樹(たけ・ひでき)。音楽評論家、ノンフィクション作家。「ステージを観てないアーティストの評論はしない」を原則とし、40年以上、J-POPシーンを取材し続けている。69年、タウン誌のはしり「新宿プレイマップ」(新都心新宿PR委員会)創刊に参画。「セイ!ヤング」(文化放送)などの音楽番組、若者番組の放送作家、若者雑誌編集長を経て現職。著書に「読むJ-POP・1945~2004」(朝日文庫)などアーテイスト関連、音楽史など多数。「FM NACK5」「FM COCOLO」「TOKYO FM」などで音楽番組パーソナリテイ。放送作家としては「イムジン河2001」(NACK5)で民間放送連盟賞最優秀賞受賞、受賞作多数。ホームページは、http://takehideki.jimdo.com
モリは友人で同じくJ-POPに詳しい。