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頭脳警察、50周年
「ピリオドはない」

   タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」

   現役の証しとはどういうものだろう。

   ステージで元気に歌う事はもちろんそうだろう。声が出ている、歌の説得力が衰えていない。年齢相応の味わいが備わっている。更に付け加えれば、新作があることだと思う。オリジナルの作品を歌うバンドやアーティストにとっては「新作」こそが現役の証しなのではないだろうか。

   2019年9月18日。結成50周年の記念アルバム「乱破」を発売する頭脳警察のPANTAはこう言った。

    「50周年でオリジナルというのはもうずっと前から決めてました。曲はいつも作ってます。その時はソロかバンドかは考えてませんね。周りからこれは頭脳警察じゃなくてソロでしょう、とか言われたりしてます」

  • 「乱破」(テイチクエンタテイメント)
    「乱破」(テイチクエンタテイメント)
  • 「乱破」(テイチクエンタテイメント)
  • 頭脳警察メンバー。前の二人がPANTA(左)とTOSHI(右)(写真 吉田茂樹)
  • 結成50周年(写真 寺坂ジョニー)
  • 頭脳警察レコーディングメンバー(写真 岩松喜平)

時代を象徴していた

   頭脳警察はPANTA(G・V)、TOSHI(PER)の二人組ユニット。結成されたのは1969年。1月の東大安田講堂の学生と機動隊の攻防戦が象徴する学園闘争が最終局面を迎えていた年。東京だけではなく全国の大学や高校がデモやストで揺れていた。

   PANTAが大学の学生集会で「読んでみな」と渡されたのが赤軍派の「世界革命戦争宣言」だった。"君達にベトナムの人民を殺す権利があるなら我々にも君たちを殺す権利がある"という一文に「ヒューマニズム」を感じて日比谷の野外音楽堂で演奏とともにシャウトしたことが発端だった。「銃をとれ!」「ふざけるんじゃねえよ」。彼らの直接的なメッセージは、ロックアウトされてキャンパスを追われ行き場を失っていた学生達の熱狂的な支持を受けた。

   ただ、彼らが"伝説のバンド"と言われるのは、そういうことだけではない。72年に発売されるはずだった一枚目のアルバム「頭脳警察1」は発売中止、その中の「世界革命戦争宣言」を外して二か月後に発売しようとした「頭脳警察セカンド」も同じように発売できず。デビューから二枚のアルバムが立て続けに発売出来なかったのは後にも先にも彼らだけだろう。"過激なバンド"が代名詞になった。ようやく発売された「頭脳警察3」は所属レコード会社から"ヒット賞"ももらっている。

   つまり、時代を象徴しているバンドだった。

   「でも、後半の3年間はずっとイメージとの戦いでしたからね。あれが自分たちの全てじゃない。他にやりたい音楽もあるのに、日本中どこに行っても『革命戦争』を求められる。もう時代も変わっているのは分かってましたし、歌いつくしている。違うことも色々やったんですけど、どうにもならない。一度、葬式を上げようと75年に解散するんです」

   二人はそれぞれソロになり、PANTAはソロのプロジェクトを発足、PANTA&HALというバンドでも活動、沢田研二や石川セリらに曲も提供している。頭脳警察として復活するのは1990年からだ。それ以降、時代の変わり目に活動するという形で続いている。2009年には5時間のドキュメンタリー映画も公開された。

   「今回、セルフカバーしている『R・E・D』という曲があるんです。"Revolution・Evolution・Devolution"、革命・進化・退化という言葉の頭文字を取ってるんですが、その流れで87年に『クリスタルナハト』というアルバムを出して、ライブをやった時に頭脳警察の曲が一番しっくりきた。じゃ、やろうかとTOSHIに連絡して再開したのが90年ですね。『R・E・D』からそこにつながっている。今回、あの曲は外せなかった」

   新作アルバム「乱破」は、全13曲。新曲が10曲とセルフカバーが3曲。その中の「R・E・D」は86年のアルバム「R・E・D(闇からのプロパガンダ)」の中の曲だ。87年の「クリスタルナハト」は、ナチスドイツのユダヤ人虐殺が始まった夜として世界史に残されている出来事をモチーフにしたアルバムだった。今回のアルバムでは21世紀の世界を見据えるように歌詞が変わっている。

抹殺されてしかるべきだったバンドが...

   更に今回セルフカバーされているのは、発売中止になったアルバムに入っていた「さようなら世界夫人よ」。ヘルマンヘッセの詞に曲をつけたものだ。オリジナルではデビュー前の学生でフルートを吹いていた吉田美奈子がコーラスで参加。もう一曲の「コミック雑誌なんか要らない」は、内田裕也がカバーして映画化もしている。彼に対しての追悼だろう。

   そういうアルバムを聞いて、何よりも驚いてしまったのが一曲目の「乱破者」だった。

   何しろいきなり尺八で始まるのだ。イントロの尺八に載せて、"臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前"という9文字を呪文のように呟いている。元黒猫チェルシーの20代のメンバーのバンドサウンドと全編の尺八。歌詞も文語調。それはこれまでの頭脳警察ともPANTAの音楽とも明らかに違った。

   「アルバムを間違えた、と思う人も多いでしょうね(笑)。色々、トライ&エラーを繰り返しましたけど、ここに行きつくのかなと。日本のロックといいながら妙にジャパニーズを取り入れるのもわざとらしいですし。これは自分の出自なんです。ルーツ。小学生の時に、親父が魔除けだからこれだけは覚えておけよと教えてくれたんです。忍者の呪文なんでしょう。家紋も9星でしたし。祖先は忍びの者だったのかもしれない。いつかこういうテーマで書きたいと思っていたんですよ」

   全10曲。同時代を生きた仲間たちに対しての鎮魂歌のような曲や回想のようなバラード。小劇場劇団と組んだ今年の春に行った公演で使われた壮大な組曲。発売中止の「セカンド」に入らなかった曲やPANTAの音楽体験の始まりのようなロックンロールのメドレーもある。様々な意味で50周年というキャリアを織り込んだようなアルバムだった。

   「誰よりも先に抹殺されてしかるべきだったバンドが50年たって一緒にやれてる。幸せですよ。そういう意味では通過点、途中経過。止まってないです。変わってないね、と言われるのは止まってないからですね。同じことをやっても周りが変わっているから変わってないように見える。好きなこと、興味あること、歌いたいことをやっていく。ピリオドはないですね」

    止まっていないから変わらないように見える。それこそが"現役"ということではないだろうか。今年69才。9月21日、渋谷マウントレーニアホール、11月25日、渋谷duo MUSIC EXCHANGEで50周年コンサートが行われる。

(タケ)

タケ×モリ プロフィール

タケは田家秀樹(たけ・ひでき)。音楽評論家、ノンフィクション作家。「ステージを観てないアーティストの評論はしない」を原則とし、40年以上、J-POPシーンを取材し続けている。69年、タウン誌のはしり「新宿プレイマップ」(新都心新宿PR委員会)創刊に参画。「セイ!ヤング」(文化放送)などの音楽番組、若者番組の放送作家、若者雑誌編集長を経て現職。著書に「読むJ-POP・1945~2004」(朝日文庫)などアーティスト関連、音楽史など多数。「FM NACK5」「FM COCOLO」「TOKYO FM」などで音楽番組パーソナリテイ。放送作家としては「イムジン河2001」(NACK5)で民間放送連盟賞最優秀賞受賞、受賞作多数。ホームページは、http://takehideki.jimdo.com
モリは友人で同じくJ-POPに詳しい。