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「デジタル・ガバメント」日本とエストニアの差はどこに

■『e-エストニア デジタル・ガバナンスの最前線』(編著・e-Governance Academy、日経BP)

   公務員のマイナンバーカードの一斉取得が始まるらしい。将来のデジタル・ガバメントにおける公的個人認証基盤なんだから、それを推進する公務員が率先して取得するのは当然と言えば当然だが、今一つ、メリットが感じられなかった。そんな中、世界最先端のデジタル・ガバメントをいち早く構築したエストニアの今は、かなり衝撃である。

納税申告3~5分、会社設立は3時間でできる

   行政サービスはEesti.eeというウェブサイト(日本のマイナポータルに相当)に一元化されており、行政サービスの99%がオンラインで利用できる。実際に、納税申告は95%がオンラインで行われ、手続きは3~5分で完了し、5日後には還付金が入金される。また、公的個人認証の利用で、銀行取引の99.8%がオンラインで行われている。

   これらにより、役所や税務署に行列ができることはなくなり、銀行に至っては、「『銀行に行く』という表現は死後になりつつある」ようだ。こうなると銀行店舗や役所の窓口も全く変わる。月末の銀行窓口の行列や、2月の確定申告のためのプレハブ小屋は、過去の風景なのだ。また、期日前投票がネット投票に移行しており、投票の30%以上がオンラインになっている。世界トップレベルのビジネス環境を造るというのが我が国政府の目標の一つにあったと思うが、エストニアは企業登録に18分、3時間で会社が設立できる。別の機会に聞いたところでは、行政サービスにかかる時間コストはGDP(国内総生産)の2%に相当し、エストニア政府はデジタル・ガバメントによりGDP2%、国防予算相当額を節約していると胸を張る。

   30年前はソ連だった国が、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた国を一足飛びに追い抜き、いかにしてデジタル・ガバメントを実現したのか。我々は、往々にして、人口130万人という小国だからできたんだと、逃げたくなる。正しい面もあろうと思うが、先進国の政府の機能は共通化しており、総合的な行政サービスを実現している以上、サイバーセキュリティー対策を含め、対象人口の大小が技術的な制約にはならないはずである。この点、本書では、「先見性のある政府、積極的なICTセクター、流行に敏感でテクノロジーに精通した国民という三者の協力関係が、このサクセスストーリーを支えている」としている。

IT人材の底上げに成功したエストニア

   日本はどうだろうか。先の大国問題についていうと、政府は中央政府のほか、都道府県、そして基礎自治体である市区町村があり、これまでそれぞれがICT化を進めているから、一種のベンダーロックイン(特定メーカーの独自の仕様等に大きく依存したシステムにより、他のメーカーへの乗り換えを困難にすること)が各所で生じていて、政府もICTセクターも、先見性のある積極的な行動を起こせなくなっているように思う。また、国民についても、この手の議論になると、スマートフォンを持っていない高齢者はどうするんだ、という議論で止まってしまう。e-スクールを推進し、IT人材の底上げに成功したエストニアとの差は大きい。

   しかし、悲観ばかりしていてもしかたがない。日本にもデジタル・ガバメントの基盤はできつつあり、先進的なシステムを提案できるICTセクターもある。エストニアの政府関係者が、デジタル・ガバメントが遅れている日本との違いを問われて「国家の強い意志」と答えている。国・地方を通じて、個々の利害や事務負担への抵抗を超えて、BPR(Business Process Re-engineering)を徹底し、デジタル・ガバメントを現実に進める政策遂行能力が問われていると思う。幅広い国民の方々にも、デジタル社会の流行を支持してもらいたい。

経済官庁 吉右衛門