2024年 4月 16日 (火)

「井上陽水トリビュート」
巨大なスケールと奥深さと

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   タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」

   何よりも参加した人たちの顔ぶれについて触れないといけない。ジャンルもレコード会社も同じではない一世代も二世代も若いバンドやアーティスト。今の音楽シーンを映し出したようなビビッドな人選と選曲、そして、彼らの解釈。トリビュートアルバムというのはどういうものかという見本のようなアルバムだった。

   何の話をしているかというと、2019年11月27日に発売になった井上陽水のトリビュートアルバム「井上陽水トリビュート」である。

   井上陽水は、1969年にアンドレ・カンドレの名前でデビュー、1971年に本名で再デビューした。今年が音楽活動50周年。「井上陽水トリビュート」は、15年ぶり二枚目のトリビュートアルバムである。

  • 「井上陽水トリビュート」(ユニバーサルミュージック、アマゾンサイトより)
    「井上陽水トリビュート」(ユニバーサルミュージック、アマゾンサイトより)
  • 「井上陽水トリビュート」(ユニバーサルミュージック、アマゾンサイトより)

15人のトップアーティストが参加

   参加者した人たちをアイウエオ順に挙げるとACIDMAN、iri、宇多田ヒカル、ウルフルズ、オルケスタ・デ・ラ・ルス、King Gnu、KREVA、斉藤和義、椎名林檎、SIX LOUNGE、田島貴男、福山雅治、細野晴臣、槇原敬之、ヨルシカ、という15人だ。

   キャリアの一番浅いのは今年メジャーデビューしたばかりのバンド、SIX LOUNGE。一番キャリアの古いのが陽水と同じく今年が50周年の細野晴臣。年齢は20代から70代まで。でも陽水と同じように1970年代を共にしてきた人は細野晴臣だけだ。それこそが人選の意図でもあるのだろう。プロデュースしたのは陽水の娘の作詞家・歌手の依布サラサ。以前、彼女をインタビューした時に「趣味は井上陽水」と言っていたことがある。「井上陽水」を知り尽くした人ならではの人選と選曲だと思った。

   井上陽水の50年は、他のどんなアーティストのそれとも違う。

   もちろん、それだけのキャリア自体が数えるほどしかいない。そして、今後も含めてこういう軌跡を描く人は出ないと思われる50年だ。

   彼を語る時に真っ先に挙げられるのが、73年に発売された3枚目のオリジナルアルバム「氷の世界」が日本で初のミリオンセラーになったことである。70年代初頭、まだシンガーソングライターという言葉すら定着してなかった時代。彼は、テレビにも出ず週刊誌の取材も受けないサングラスにカーリーヘアーという神経質そうな若者だった。デビューアルバムのタイトルは「断絶」である。大人たちと「断絶」した世代のシンガーソングライターのアルバムが史上初のミリオンセラーになった。それを金字塔と呼ばずに何と呼ぼう。

   トリビュートアルバムでは、そんなデビュー当時の曲が3曲選ばれている。「断絶」の中の「傘がない」は、当時、テレビのニュースよりも君に会いに行くのに傘がない方が問題、という若者たちの「政治的無関心の歌」と言われた。今年行われた50周年ツアー「光陰矢の如し~少年老い易く学成り難し」を前に陽水は「傘だけじゃなくていろんなことが"ない"歌」という今の実感を語っていた。結成20周年を超える実力派バンド、ACIDMANが荘厳とすら言える劇的なロックに仕上げている。やはり73年の「夢の中へ」は槇原敬之が「夢」が「現実」になって行くような粋な遊びを加えている。陽水の言葉の"シュールさ"の例として挙げられる「東へ西へ」は、ヒップホップとジャズをミックスして注目されているiriが曲の世界を広げている。

タケ×モリ プロフィール

タケは田家秀樹(たけ・ひでき)。音楽評論家、ノンフィクション作家。「ステージを観てないアーティストの評論はしない」を原則とし、40年以上、J-POPシーンを取材し続けている。69年、タウン誌のはしり「新宿プレイマップ」(新都心新宿PR委員会)創刊に参画。「セイ!ヤング」(文化放送)などの音楽番組、若者番組の放送作家、若者雑誌編集長を経て現職。著書に「読むJ-POP・1945~2004」(朝日文庫)などアーティスト関連、音楽史など多数。「FM NACK5」「FM COCOLO」「TOKYO FM」などで音楽番組パーソナリテイ。放送作家としては「イムジン河2001」(NACK5)で民間放送連盟賞最優秀賞受賞、受賞作多数。ホームページは、http://takehideki.jimdo.com
モリは友人で同じくJ-POPに詳しい。

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