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「なでしこ」金メダルの可能性は W杯優勝監督・佐々木則夫が占う【特集・目指せ!東京2020】

   東京五輪でメダル獲得が期待されている競技の一つが、サッカー女子。その日本代表、通称「なでしこジャパン」を語る上で、絶対に外せないのが前監督の佐々木則夫氏だ。

   2008年になでしこジャパンの監督に就任すると、東アジアサッカー女子選手権2008で日本女子代表初となる公式大会タイトルを獲得。北京五輪ではベスト4、さらに2011FIFA女子ワールドカップ(W杯)ドイツ大会では、下馬評を覆して世界一となった。日本がFIFA主催大会で優勝したのは、これが初である。

   その後も2012年のロンドン五輪では銀メダル、2014年にはAFCアジアカップで初優勝、2015 FIFA女子W杯カナダ大会では準優勝と見事な手腕を発揮していく。

   佐々木氏に、東京五輪でのなでしこジャパンを占ってもらった。(インタビュアー・石井紘人 @ targma_fbrj)

  • 力強くポーズをとってくれた佐々木則夫氏
    力強くポーズをとってくれた佐々木則夫氏
  • 力強くポーズをとってくれた佐々木則夫氏
  • 身振り手振りを交えて熱く語った
  • J-CASTのキャラクター・カス丸と一緒に

震災後にW杯制し「特別な感じがしました」

――佐々木さんは、なでしこジャパンで多くのタイトルを獲得されましたが、思い出に残っている大会を教えて頂けますか。

佐々木 嬉しかったのは、やはり2011年FIFA女子W杯ですね。東日本大震災後に、あまり知名度のないなでしこジャパンが優勝したことで、日本を元気にしてくれたと言って頂いて、特別な感じがしました。辛かったのは、2016年のリオ五輪アジア最終予選で敗退してしまったことです。

――そのリオ五輪アジア最終予選敗退ですが、今思えば「こうしておけばよかった」など"たられば"はありますか。

佐々木 あります。初戦が大事だと選手にプレッシャーをかけ過ぎました。本大会と違い、予選というのは、「勝って当たり前」と思われているわけです。しかも、予選は日本での開催で、選手たちは今までとは違うプレッシャーを受けていた。その心理状況を私が理解できておらず、いつもと同じように初戦への準備をして、1-3でオーストラリアに敗れてしまった。そして、(選手は)第二戦で更にプレッシャーを受けて、普段出来ることが出来なくなった。パスが相手に渡って失点してしまうなど、悪い方に歯車が回っていくのを私が変えてあげられなかったことに悔いが残っています。

――その後、なでしこジャパンの監督にはユース年代で結果を出していた高倉麻子氏が就任します。2019年のW杯は決勝トーナメント一回戦で誤審に泣いた部分もありますが、オランダに敗れます。W杯では好成績を残せませんでしたが、東京五輪の女子サッカーはメダルをとれますか。

佐々木 高倉監督が就任して、思うようにいかなかったのは、オランダ戦だけだと思っています。あの試合に勝っていれば、全然違う結果になったでしょう。高倉監督は若い世代を生かしながら、2018 AFC女子アジアカップで優勝しています。私は非常に可能性を感じています。

守備で「絶対に負けない」と取り組めるか

――佐々木さんから高倉監督に代わり、なでしこジャパンには、どのような魅力が増えましたか。

佐々木 私のチームは守備がしっかりとしていました。高倉監督のチームは、ボールを持っている連動した攻撃の展開・精度に魅力があります。小柄でも、パスセンスや敏捷性やボールテクニックに抜きんでた選手が多く、日本人らしいサッカーで魅了してくれます。それに加えて、日本の女性の目配り・気配りの凄さを守備にプラスアルファして欲しい。守備の部分で個人と連携を卓越させることを、東京五輪までに期待したいです。

――守備の意識向上がなでしこジャパン躍進のカギになる、と。

佐々木 女子W杯を見ていて、自分の特異性(得意なプレーや特徴)だけでサッカーをやるのではなく、献身的な中身・心のあるプレーが必要だと感じました。特に守備においてです。守備は、相手の攻撃に対し、予測や連携が凄く大事になります。その中で時折(マークの受け渡しやポジションにしっかりと戻るなどで)エクスキューズが発生するのですが、そこで「絶対に負けない」と取り組めるかどうかです。選手たちが守備の部分を意識すれば、メダルをとれるのではないでしょうか。

――佐々木さんは現在、女子サッカーの普及や東日本大震災被災地の支援に取り組まれています。最近では官民一体事業「日本全国DOスポーツ活性化プロジェクト」が、スポーツ実践の機会づくりに貢献する100大会・イベントに最大100万円、総額1億円をサポートする企画において、サッカー部門の選考委員に選ばれました。どのような思いがありますか。

佐々木 企画や楽しいイベントのノウハウがあったとしても、スポーツイベントの運営は(金銭的にボランティア頼みなど)様々な面で大変な部分も多い。そこを、今回の「総額1億円サポート企画」はフォロー出来ます。素晴らしい企画ですよね。実は先日、海堀あゆみ(元なでしこジャパンGK)から「女子サッカーを広めていきたい」ということで企画の相談があったので、凄くタイムリーだなとも思いました。

*取材後の2019年12月10日~18日に行われたEAFF E-1 サッカー選手権2019決勝大会で、なでしこジャパンは無失点で優勝した。


佐々木則夫(ささき・のりお)
1958年5月24日生まれ。山形県尾花沢市出身。明治大学を経て日本電信電話公社に入社し、電電関東/NTT関東サッカー部(大宮アルディージャの前身)でプレー。
1981年には全国社会人大会で優勝を経験。1986年には全国地域リーグ決勝大会での優勝。同サッカー部は日本サッカーリーグ2部に昇格した。
ジャパンフットボールリーグ時代の大宮アルディージャ監督を務め、その後は大宮の強化普及部長及びユース監督を歴任。
2006年1月1日から、サッカー日本女子代表コーチ及びU-17日本女子代表監督に就任。2007年からはU-20日本女子代表監督を務め、同年末、日本女子代表監督に就任し、その後、記事冒頭のとおり多くのタイトルを獲得した。
2012年1月9日、2011年度のFIFA年間表彰式においてアジア出身者初となるFIFA女子世界年間最優秀監督賞を受賞。
2016年、代表監督を辞任し、同年4月十文字学園女子大学副学長に、また11月より大宮アルディージャトータルアドバイザーに就任した。

文:石井紘人(いしい・はやと)
ラジオやテレビでスポーツ解説を行う。主に運動生理学の批評を専門とする。
著作に『足指をまげるだけで腰痛は治る』(ぴあ)『足ゆび力』(ガイドワークス)、プロデュース作品に久保竜彦が出演した『弾丸シュートを蹴る方法』(JVD)がある。
『TokyoNHK2020』サイトでも一年間に渡り、パラリンピックスポーツの取材を行い、「静寂から熱狂そしてリスペクト」などを寄稿。
株式会社ダブルインフィニティ代表取締役でもあり、JFA協力、Jリーグと制作した『審判』の版元でもある。