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「水害のリアル」今しか見られない 熊本の旅行社が豪雨被災地訪れるツアー

   鉄橋がボロボロになって川の上に落下した、無残な姿。旅のチラシには似つかわしくない写真が、大きくレイアウトされている。「坂本ツアーズ」と名付けられたツアーの行先は、熊本県八代市坂本町だ。2020年7月の豪雨で地域を流れる球磨川が氾濫し、大きな被害を出した。

   ツアーを地元住民らと始めた熊本市の「旅のよろこび」代表取締役・宮川和夫さんは、こう望む。水害から1年、復旧には程遠い現地を多くの人が訪れて、現状を知ってもらいたい――。

  • 跡形もないJR肥薩線・瀬戸石駅(写真提供:宮川和夫さん)
    跡形もないJR肥薩線・瀬戸石駅(写真提供:宮川和夫さん)
  • 跡形もないJR肥薩線・瀬戸石駅(写真提供:宮川和夫さん)
  • 球磨川のゴミを回収(写真提供:宮川和夫さん)
  • 人吉市・青井阿蘇神社(写真提供:宮川和夫さん)
  • 自宅が被災した人の話に耳を傾ける(写真提供:宮川和夫さん)

坂本町の状況を知ってほしい

   宮川さんの友人に、坂本町在住の友人夫婦がいる。「何かサポートできないか」を考えていたおり、友人も「地域の状況をぜひ知ってほしい」と願っていたことからツアーを計画した。

   初回は2021年5月16日に実施。新型コロナウイルスの感染拡大がやまず、参加者は熊本県内に限定せざるを得なかった。それでも、日帰り旅に10人ほどが申し込んだ。マイクロバスで、狭く崩れそうな道を進み坂本町へ。現地では、被災した地元の人たちの声に耳を傾けた。球磨川のリバーガイドを務める男性は、自宅1階が大きく損壊した。ツアー参加者に、こんな話をしたという。

「家の後片付けの最中、ボランティアの人に『これ、どうしますか』と聞かれる。全部が思い出の品なので、(処分するのは)とてもつらい」
道の駅坂本(写真提供:宮川和夫さん)
道の駅坂本(写真提供:宮川和夫さん)

   宮川さんの友人夫妻も、被災経験を参加者に話した。豪雨と川の氾濫で浸水した地域をめぐる。根こそぎ流されたJR肥薩線・瀬戸石駅は、当時のまま。球磨川第一橋梁はほぼ流出し、残った橋が寂しかった。

「坂本町は山あいの、過疎の町。高台の家は浸水を免れたので住民は残っていますが、町の中心部が流されてしまった。これでは生活が成り立ちません」

   宮川さんは、こう指摘した。

社会科見学で子どもたちを

球磨川でラフティング。写真左奥に、水害で被害を受けた球磨川第一橋梁が見える(写真提供:宮川和夫さん)
球磨川でラフティング。写真左奥に、水害で被害を受けた球磨川第一橋梁が見える(写真提供:宮川和夫さん)

   「坂本ツアーズ」に、2021年度「熊本県地域づくり夢チャレンジ推進補助金」支給が決まった。そこで7月22日の2回目のツアーは、参加費を初回の1万8000円から9800円に減額。内容も、町の散策や被災者の話を聞くのに加えて、球磨川ラフティング体験やゴミ拾いといった新たな企画が盛り込まれた。

   自宅が被害にあった女性が、参加者に被災時の様子を話している途中に涙ぐんだのを、宮川さんは目にした。「つらい体験を思い出させてしまったかな」と感じたが、本人はこう語ったという。

「(気持ちを)吐き出すことで(心の中が)整理できるから、大丈夫です」

   3回目は9月26日に予定していたが、熊本県内で新型コロナの「まん延防止等重点措置」が同月末まで延長されたため、10月10日に延期。それでも実施にこぎつけた。10月24日には新たに、人吉市への「復興応援ツアー」も開催。球磨焼酎をつくる「大和一酒造元」や青井阿蘇神社ほか、被害にあった場所を訪れ、地元の人の話を聞いた。旅行代金の一部は復興支援金として、訪問先に寄付するツアーだった。

人吉市・大和一酒造元を訪れたツアー一行(写真提供:宮川和夫さん)
人吉市・大和一酒造元を訪れたツアー一行(写真提供:宮川和夫さん)

   11月29日、4回目の「坂本ツアーズ」が予定されている。寒い時期になったためラフティングはないが、「まちめぐり」と題され、料金は8800円と抑えられた。11月24日まで申し込みを受け付けている。

   このツアーの含め、現状は新型コロナ対策から参加条件は熊本県内在住者だ。だが「坂本ツアーズ」は来年、再来年も続けると宮川さん。感染状況がこのまま落ち着けば、県外からの参加者を募集していきたいと意気込む。

   豪雨災害から1年。だが「坂本ツアーズ」参加者からは、現地の様子を直接目にして「まだ、終わっていないんだ」という感想が聞こえてきたという。

「例えば地元の子どもたちを社会科見学で、坂本町に連れて行ってはどうかと思います。(水害で破壊された様子が残っている)今しか見られません。豪雨災害はどこでも起き得ます。被災地の現実をじかに見て、住民の話を聞き、帰宅したら防災マップを手に自分の地域を知る。リアルな勉強の機会になるのは間違いありません」

(J-CASTトレンド 荻 仁)


(2021年11月23日15時追記)一部内容に誤りがあり、修正しました。