不意打ちで泣かせてほしい(東京タワー オカンとボクと、時々、オトン)

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   正直、最初はダメかと思ったよ。もこみちくん、田舎出の青年にしては、スタイルよすぎるし、アカヌケしすぎてるし。

   原作は言わずと知れた大ベストセラー(まだ読んでないけど)、九州から上京してきたボク(速水もこみち)とオカン(倍賞美津子)の物語。ところがこの主人公、前半はかなりのロクデナシである。夢もやる気もない。いい若者がバイトの口などいくらでもあるだろうに、食べる物がないだと?! と、早くも脱落しそうな私。

   それが4話にして、ついに泣かされてしまった。甲状腺の癌に冒され手術をすることになったオカン。医者からは声帯も取るよう勧められるのだが、それを拒否。てっきり飲み屋を続けていくためかと思った。なのに、「声帯をとったら、息子と電話で話せなくなるから」って。

   そうか、遠く離れた母子をつないでいたのは、一本の電話だけだったんだ。と思った途端、喉の奥から涙が押し寄せてきた。

   倍賞さんがうまい。癌を告げられ、ガラス窓に映る自分をじっと見て髪のほつれを直す姿。ありがちな演出にもかかわらず、気持ちが痛いほど伝わってくる。息子の描いたイラストが初めて載った雑誌を見つけ、嬉しくて嬉しくて誰彼かまわず話しかけるところも。顔や手に刻まれたシワ、かすれた声も目線も、一挙手一投足に釘づけだ。

   その後、オカンを東京に呼び寄せるボク。でもいざ一緒に暮らしはじめると、やっぱりウザかったりして。ケンカしてしまったあと、オカンが田舎から持ってきた小さな荷物を見ると、そこには。

   ここで、息子のイラストを集めたスクラップブックを見つけるのは普通。むしろやられたのは、額に入れて大切に持っていた大学の合格通知と卒業証書。だってそれは本人にとって、もうどうでもいいはずの物だから。

   が、しかし、本屋大賞を受賞し、これだけ読者に支持されている作品である。まだまだ、こんなもんじゃないはず。“いかにも”の感じではなく、あくまでも、不意打ちで泣かせてほしいのだ。

   ※東京タワー オカンとボクと、時々、オトン 月曜夜9時・フジテレビ系

文   ツキノ・ワグマ
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