「バベル」
ドラマティックで陰惨、人類の原点えぐる最高傑作

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   筆者の目からは映画として遥かに優れており、2006年の最優秀作品に推したい「バベル」だ。「ディパーテッド」に敗れたアカデミー作品賞はどうも陰謀の匂いがする。長い落選歴のスコセッシ監督への同情が、若いメキシコ人監督への投票を上回った。今年のアカデミー賞は外国映画が賞を独占する勢いのウィンブルドン現象。危機感を覚えたアメリカ人アカデミー会員たちはアメリカびいきの旗幟を鮮明にした。

(C) 2006 by Babel Productions, Inc. All Rights Reserved.
(C) 2006 by Babel Productions, Inc. All Rights Reserved.

   旧約聖書の創世記。神に近づこうと天まで届くバベルの塔を建てようとした人間に怒った神は「言葉を乱し世界をバラバラにしよう」。そこからコミュニケーションが取れなくなる。この作品のテーマは言葉や気持ちが通じない世界。善意や好意で起こした小さな行動が文明社会の内部を貫き、とてつもない恐怖をもたらす。

   始まりは、羊を襲うジャッカル退治に買ったライフル。モロッコの山村の羊飼いの少年の放ったそのライフルからの銃弾が、観光バスのアメリカ人スーザン(C・ブランシェット)の肩を貫く。重傷の彼女を病院に運ぼうとして、大使館とモロッコ政府の政治的狭間で途方に暮れる夫リチャード(B・ピット)。
   サンディエゴの留守宅で夫妻の二人の子供たちは、メキシコ人乳母アメリア(A・バラッザ)の庇護の下にある。アメリアは国境を越えてメキシコにいる息子の結婚式に出席したいが、子供たちをどうしようか迷う。
   モロッコの少年のライフルは、東京の豪華マンションに住む裕福な日本人ヤスジロー(役所広司)が狩猟に来た時、村人に与えたもの。彼の妻は数か月前に自殺し、ショックを受けた高校生で聾唖の娘チエコ(菊地凛子)との間がうまく行かない。一つの事件を契機に波紋は国境を越え3大陸の4か国に広がる。言葉が通じない、想いが届かないシーンが展開される。

   オーディションで役を得た菊地凛子が大胆なヘアヌードで歩き回り、アカデミー助演女優賞にノミネートされた。だがこれも全裸演技に尽き、今後国際女優として通用するかどうかは疑問だ。ハル・ベリーが「チョコレート」で黒人初のアカデミー主演女優賞を取ったときの、相手役のコメントを思い出す。「あれだけ大胆に裸になったんだからなー、何か賞でもやらなければ」。

   イニャリトゥ監督は「アモーレス・ペロス」や「21グラム」でも見せたように、ある事件から発生する幾つかのエピソードをオムニバスに仕立てるのが得意。今までの作品の中で、これはドラマティックで陰惨、人類への示唆に富んだ最高の出来栄えだ。

恵介
オススメ度: ★★★★★
バベル(BABEL)
2006年メキシコ映画・ギャガ配給・2時間23分・2007年4月28日公開
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演:ブラッド・ピット / ガエル・ガルシア・ベルナル / 役所広司 / 菊地凛子
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