「ロストロポーヴィチ 人生の祭典」
チェロ巨匠の貴重なドキュメンタリー

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   昨年公開され評判を呼んだ昭和天皇の苦悶を描く「太陽」のアレクサンドル・ソクーロフ監督は作品群の中で記録映画が半分を占める。その監督作品で、20世紀の最も偉大なチェリスト、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチの80歳記念ドキュメンタリー映画が4月21日から公開されている。突如、その主人公ロストロポーヴィチの逝去の報が4月28日にもたらされた。

ロストロポーヴィチ

   映画は天才の足跡を追う。1927年、旧ソ連アゼルバイジャンの首都バクー生まれ。50年にプラハの国際コンクールで優勝し、チェロ演奏家として世界的に名を馳せる、モスクワ音楽院で師事したショスタコーヴィチをはじめとする著名作曲家が楽曲を提供した。61年にはロシア・ゴーリキー(現ニジニーノブゴロド)市で指揮者としてデビューした。

   69年以降はブレジネフ政権と対立して、ノーベル賞作家のソルジェニーツィンを別荘にかくまうなど反抗の精神を示した。そして74年には夫人のソプラノ歌手ガリーナ・ヴィシネフスカヤとともに亡命し、75年からワシントンに定住。78年にソ連の市民権を剥奪された。アメリカは暖かく夫妻を受け入れ、音楽活動は中断されなかった。90年に16年ぶりに市民権が回復されて帰国。祖国で演奏を続けていた。

   ソクーロフ監督は、天才を目撃し記録することをこの上ない喜びとするトーンで二人を追う。誕生パーティなどデジタルで撮りデジタルで編集しているので臨場感が溢れる。ショスタコーヴィチとの交流でロストロポーヴィチが「作曲家と演奏家は二つの人間の類型だ。演奏家は娼婦で作曲家と恋に落ちる」とのコメントは興味深い。

   夫人はボリショイ劇場のオペラで一世を風靡したソプラノ歌手、ガリーナ・ヴィシネフスカヤ。結婚後も夫婦別姓でそれぞれ独自に活動する。二人の天才を監督は「2人のお陰で音楽は孤児にならなくて済んだ」と語っている。天才を見ることで、天才と同じ世界に身を置くことの幸せを画面に生き生きと描いている。

   興味あるシーンはウィーンフィルでの共演。ペンデレッキの新曲を演奏した時の指揮者、小沢柾爾との談笑だ。小沢とは1965年にトロントで知り合って以来、兄弟のように親しい友達だと言う。何語で話しているか会話は聞こえないが2人の表情は和やかで微笑ましい。「スラヴァは音楽においても人生においても私の兄貴分である。彼から沢山のことを学んだ」との小沢の言葉に親しみを覚える。 この映画の中でも健康を気遣う点が多々見られるが、昨年から入退院を繰り返していたという。その意味でもこの映画はロストロポーヴィチの晩年を記す貴重な記録だ。

恵介
オススメ度: ★★★☆☆
ロストロポーヴィチ 人生の祭典(ROSTROPOVICH & VISHNEVSKAYA)
2006年ロシア映画・デジタルサイト配給・記録映画・1時間41分・2007年4月21日公開
監督:アレクサンドル・ソクーロフ
出演:ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ / ガリーナ・ヴィシネフスカヤ / 小澤征爾
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