「雲南の少女 ルオマの初恋」
美しい棚田をバックに「無垢な17歳」の切ない恋えがく

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   北京に近づく飛行機の窓から北京市街が霞んで見える。黄砂と世界一の排出量のCO2などで汚染された大気がどっぷりと市全体を包む。だから、筆者は北京が嫌いだ。チアン・チアルイ監督もそう考えたようだ。雲南に行けば「青い空と白い雲」がある。TVの仕事で雲南に出かけたチアルイはこの地に魅せられ、雲南三部作を作ることになる。この作品はその第一部だ。


   雲南省は中国最西南部に位置し、緑の森林に囲まれている。この物語の主人公が住んでいるのはかなり山地に分け入った急斜面。標高は2000Mもある雲の上の村だ。北京や上海など大都会では古い中国は消えて行くが、ここでは山の斜面の小さな田んぼが縞馬の模様のように連なり、その棚田にすべてを託して昔ながらの生活を送っている。そこに住むハニ族には余り選択肢は無い。先祖伝来の小さな棚田を守って生きる。山あいに無数に連なる棚田は、太陽の光を反射し緑の稲苗を抱いて、言葉に尽くせぬほど美しい。安倍首相の「美しい日本は田園の美しさ」だと言う意味も良く分かる。この映画の後、「雲南の棚田」はユネスコの世界遺産への登録を申請している。

   ルオマ(リー・ミン)はおばあちゃんの茹でたとうもろこしを背負い籠に入れ、バスに乗って町に出る。通りで売るがなかなか売れない。大都市から来て写真スタジオを町に開いているカメラマンのアミン(ヤン・チーカン)が声をかけ10本もとうもろこしを買う。だがアミンは金が無い。その代わりにとウォークマンをルオマにあげる。ウォークマンから聞こえるアイルランドの歌手の美しい歌声は、ルオマに新しい世界をもたらす。翌日アミンは驚く。ハニの民族衣装を着てとうもろこしを売るルオマにアメリカ人観光客がカメラ片手に群がる。アミンはルオマを見晴らしの良いところへ連れ出し、観光客相手に少女と写真を撮らせる商売を思いつく。

   ルオマがアミンに恋心を抱くようになるのには時間がかからない。しかし村を出て都会へ行くにはおばあちゃんを始め村人たちとの別れの手続きや儀式が必要だ。それを経ても意外な女性の出現で都会の若者と村の少女のロマンスはそう簡単にははかどらない。

   邦題は「初恋」とうたっているが原題は「ルオマ17歳の時」。世間の穢れも醜さも複雑な仕組みも知らない無垢の少女が、人生で初めて立ち向かう試練。その健気さに思わず涙がこぼれる。棚田の美しい風景をバックに詩情豊かな画面が展開する哀しい少女の物語に引き込まれて行く。

   キャストで演劇経験のあるのは当時北京電影学院3年のヤン・チーカンのみ。ルオマを演じるリー・ミンはハニ族の高校生で素人。浅黒い肌に吊り上がった大きな目、めくれている肉厚の唇、南方独特の美しい顔立ちだ。田んぼの中で泥を投げあう恋の告白の儀式。泥を顔に被ったルオマがアミンを見つめる目は情を込めて光っている。この演技でリー・ミンは中国のアカデミー賞にあたる金鶏奨の最優秀新人賞を獲得している。現在は大学の3年生で法学を専攻しているという。

恵介
オススメ度: ★★★★☆
2002年中国映画・ワコー/ グアパ・グアポ配給・90分・2007年6月16日公開(東京都写真美術館ホール)
監督:チアン・チアルイ
出演:リー・ミン / ヤン・チーカン
公式サイト:http://www.ruoma.jp/
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