「地獄を見た者は強い」 弟子を谷底に落とす宮大工
「大工」と一口に言っても、その中には様々な種類がある。一般的な住宅を造る「家屋大工」、茶室を専門とする「数奇屋大工」など。今回のプロフェッショナル・菊池恭二は、神社仏閣の建築を手がける「宮大工」だ。
宮大工の世界では、職人は、師匠から直接技を教えられる「徒弟制度」のもとで育つ。菊池も多くの弟子を抱え、古くから続く宮大工の技術と伝統を伝える立場にある。だが、今やその技術を継承するのは100人に満たないのだそうだ。
番組中、とある寺の新築工事を請け負った菊池が、25歳の弟子に棟梁を任せる場面があった。その弟子が棟梁を務めるのは初めてのこと。彼がどんな風に若手を育てるのか、興味がわいた。菊池は弟子につきっきりで仕事を教えていた。しかしただ教えるだけではない。ことあるごとに声を荒げ、プレッシャーを与える。彼はわざと弟子を谷底に突き落としたのだ。ここに菊池の「プロとしての流儀」がある。
彼自身、独立してまだ間もない頃にどん底を経験した。工事の最中、材木置き場で火事を起こしてしまったのだ。当然工事は滞り、菊池は極限まで追いつめられた。
「火事になっても仕事をこなさなければならないし、職人も引っ張っていかなければいけない。積極的になんとかしていかなければならないんだ、という考えがあの事件で育ちました」
そう菊池は振り返る。その話を聞いて番組ホストの茂木健一郎が口にした「地獄を見た人は強い」という言葉が、強烈に響いた。
きっと過去に受けたどんな助言や指導よりも菊池を強くしたのは、その一件なのだろう。だから弟子にもあえて過酷な体験をさせる。
「挫折が人を強くする」「苦労は買ってでもしろ」。どちらも茂木が良く言う「逆境が人を育てる」ということ。なるほど、「奈落の底」には落ちたもん勝ち、なのか。