「Watch with Me 卒業写真」
余命半年のカメラマン、故郷で撮る最後の写真集

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   邦画で英語のタイトルは珍しいが、Watch with Meは「私とともに目を覚まして祈りなさい」、新約聖書マタイ伝の言葉だ。終末医療の近代ホスピスの創設者、シシリー・ソンダース女史は「死が近い人を見守る」と言う意味で、ホスピス基本精神を示す言葉として使ったという。その言葉を引用したこの映画は、ホスピスを舞台に人間の生と死を見つめる。セットではない久留米聖マリア病院や久留米大学付属病院のホスピス病棟、死に行く人を見守る本物映像は浮わついていない。

(C)2007映画「Watch with Me~卒業写真~」製作委員会
(C)2007映画「Watch with Me~卒業写真~」製作委員会

   癌で余命半年と宣言された報道カメラマン上野和馬(津田寛治)は生きる希望を捨てきれずにいる。残りの短い人生を故郷で過ごしたいと、東京から妻由紀子(羽田美智子)を伴い、福岡県久留米市に戻り中学から同級の医師の勤務するホスピス病棟に入る。次々と同級生たちが見舞いに来る中で、和馬は自分の思い出を皆に語り始める。その中で和馬がどうしても思い出せない少女のシルエットがある。記憶を呼び起こそうと由紀子の力を借りて外出し、風景や人々のスナップを撮り始める。そのうち中学時代、東京から転校してきた萩原ひとみ(高木古都)との初恋が想い出される・・・。

   先月癌で死んだ作家の藤原伊織も、人の幸せの総量は人間の寿命とQuality Of Life(質の高い生き様)の掛け算でその面積だと言っていた。薬漬けでベッドに縛られて生きながらえるだけなら直ぐ死ぬ方がまし。生きている限り何か人生の目的に向かって進むべきだと。最後の仕事と決めて衰弱する身体に鞭打って、写真を撮り続ける和馬。被写体は風景から次第に人物に移り、同級生たちが呼びかけ動員をかけた人たちが続々と集まって来る。果たして彼の存命中に写真集は完成するのだろうか?

   監督はベルリン国際映画祭で注目された「千年火」の瀬木直貴。主役の上野和馬は「模倣犯」でブルーリボン賞助演男優賞の津田寛治。頬がこけ、目が異様にぎらつく演技は確かな癌患者だ。妻由紀子役に羽田美智子。華が無く、あまり好きな女優ではないが、夫の病状を気にしながら、彼の昔の幻の初恋に嫉妬する芝居は良い。その美少女、萩原ひとみは「着信アリ ファイナル」でデビューした高木古都、今年17歳。中学生時代の和馬役にオーディションで選ばれた中野大地。父の転勤で街を出るひとみの汽車を追う和馬の胸のうちが伝わって来る演技が良い。主題歌はサブタイトルにもなっている「卒業写真」。荒井由美の作詞・作曲でHi-Fi SETの懐かしい曲だ。

   寿命がカウントダウンの主人公という映画は、韓国を始め洋の東西を問わず多い。病気は大抵、不治の病の癌。その主人公を巡る環境とストーリーが勝負となる。取り立てて事件が起こる訳でもない筋書きが読める展開ではあるが、故郷・筑後の美しい田園風景や素朴な草野風流の祭りが印象に残る。何よりも、どうしようも無く手をこまねいて主人公の死を見守る近しい人々の心境が伝わって来る。淡々と描く画面は訴えるものがある。

恵介
オススメ度: ★★★☆☆
Watch with Me~卒業写真~
2007年日本映画、ティ・ジョイ配給、2時間 5分、2007年6月9日公開
監督:瀬木直貴
出演:津田寛治 / 羽田美智子
公式サイト:http://www.sotsugyo-mov.jp/
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