2024年 4月 24日 (水)

「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」
こんなバラバラな家族、見たことない

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   「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」とは凄いタイトルだが、実はこれはホームドラマ。北陸の山間部に住む田舎の家族の物語だが、こんな愛憎入り混じったバラバラの日本の家族は見たことが無い。勘違いする姉が起爆剤で、その姉を漫画に描いて攻撃する内向的な妹、家族を絶対視する兄、ものごとをイージーに受け止め幻想に繋げる兄嫁、皆テンデンバラバラでコミュニケーションが取れていない。ブラックユーモアに満ちたこの映画は本谷有希子の原作。本谷は「劇団、本谷有希子」を主宰する劇作家でもあり、同名の原作は三島由紀夫賞を受賞している。

(c)2007「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」製作委員会
(c)2007「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」製作委員会

   突然の交通事故で両親が死ぬ。風の通らない山間部のうだるような暑い葬式の日。女優を目指して上京していた長女、澄伽(佐藤江梨子)が4年ぶりに帰って来る。着いたその日から女王のように和合家の面々に振る舞いだす澄伽。妹の清深(佐津川愛美)には特に辛く当る。話は4年前の出来事にさかのぼる。上京に反対する父と口論になり、逆上した澄香はナイフで切りつけ、止めに入った兄の宍道(永瀬正敏)の額に傷を残す。それでも諦めない澄香は資金作りのため同級生相手に売春をする。つぶさに見ていた清深がそれを漫画に描き投稿すると新人賞を得て、ホラー漫画誌に大々的に掲載されたからたまらない。澄香は逃げるように村を脱出。しかし自分が女優にまだなれないのは「変な漫画を描いてあたしをさらし者にしたせい」と妹を責めまくる・・・。

   登場人物やストーリーは悲惨で重苦しいが、これが笑ってしまう。澄香が怒れば怒るほど可笑しい。自意識過剰な姉、皮肉屋の妹、家族の秘密を我慢して守ろうとする兄、何も知らないで兄に嫁いで来たお人好しの待子(永作博美)。ダイナマイト姉、澄伽の不在で保たれていた平和が、彼女の帰郷で一触即発の家族危機に急変する。間に挿入される妹、清深が姉をモデルに描くおどろおどろしい漫画が危機を予言する。

   監督・脚本は吉田大八。広告の世界で数百本のCMを撮り続けた吉田の長編映画デビュー作品だ。画像の処理、テンポ、転換など、伊達にCM界に長くいた訳では無いと証明してくれる。主演の佐藤江梨子は今までの中で最高の演技だ。もっとも自意識過剰の女優志望なら地で出来るか。黙っているが猛烈な闘志を秘めた妹役の佐津川愛美も良い。「蝉しぐれ」でデビューしてから急速な進歩だ。澄伽の暴走を敢えて止めようとしない寡黙の演技の兄役、永瀬正敏。このメンバーでは大ベテランだ。家族の暗さを救ってくれる兄嫁役の永作博美も好演。孤児で家庭の暖かさに憧れており、何としてでも潤滑油になり家族の融和を図ろうとする芝居がいじらしい。

   久しぶりに堪能出来る日本映画に巡り合った。

恵介
★★★★★
2007年日本映画、ファントム・フィルム配給、1時間52分、2007年7月7日公開
監督・脚本:古田大八
出演:佐藤江梨子 / 佐津川愛美 / 永瀬正敏
公式サイト:http://www.funuke.com/
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