「ミリキタニの猫」
日系アメリカ人のホームレス、ジミーは猫が好き

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   ミリキタニとは人の名前なのだが、最初は東欧の人間かと思った。カメラが追うのは路上で寝ているホームレスの老人だ。痩せこけて貧相で粗末な身なりの年寄りはどう見ても日本人。聞けば漢字は「三力谷」と書いて、広島出身だと。映画が進むにつれて、徐々に彼の喋りで出自が明らかになっていく。

(c)2006 lucid dreaming, inc. All Rights Reserve.
(c)2006 lucid dreaming, inc. All Rights Reserve.

   映画の製作・監督・撮影・編集、そしてインタビューアーはリンダ・ハッテンドーフという女性だ。リンダと主人公ジミー・ミリキタニとの出会いはリンダのアパート近くの路上だった。猫の絵を抱いて韓国人のデリ・ショップ前の路上で寝ているジミーに興味を抱き、カメラを向けて彼の生い立ちを聞くところから映画は始まる。

   ジミー・ミリキタニは1920年カリフォルニア州生まれの日系アメリカ人二世。3歳で日本に戻り広島で育ち、長じて日本画を学ぶ。18歳で軍国主義の日本を逃れてアメリカに戻った。しかし21歳の時に真珠湾攻撃で日米開戦、住んでいたシアトルからカリフォルニア州北部の砂漠地帯の強制収容所に送られた過去をもつ。

   ジミーがNYにやって来たのは終戦から数年たった1952年。日本で学んだ美術をアメリカに広めようとした。しかし絵では食えずにNY仏教会で料理人として訓練を受け、それからリゾート地やカントリークラブ、レストランなどを転々とする。富豪のお抱えコックをしていた時が一番安定していた時期だったが、80年代後半に富豪が亡くなり路上生活が始まる。

   ジミーと出会ったリンダは同情し、アパートに同居させてジミーの親類家族を追うとともに、かつて失ったアメリカ市民権の回復に努める。そしてその経過をドキュメンタリーに残そうとする。彼女の努力をジミーは余計な世話だと撥ね付けるのだが、単に老人の頑固さなのか面倒臭さなのか分からない。

   それにしてもジミーの英語の下手さ加減には驚く。18歳から70年近くアメリカに住んでいながら、タドタドしい発音に文法も間違いだらけ。おそらく市民権回復の手続きや社会保険証の登録などを嫌うのは、複雑な英語についていけないゆえの負け惜しみではないか。唯一流暢に喋るのはI was born in Sacramento, Californiaだけ。これは何回も喋ったからに違いない。それ以外は何か言おうとするとアーウー英語だ。

   リンダの尽力でジミー・ミリキタニにようやく幸せが戻って来ると観客はハッピーになる。しかし本人は今までの路上生活は不幸だと思っていないようだ。タイトルにあるように、ジミーは猫が好きで猫を好んで描く。大きな三毛猫を大きな筆で描くジミーの得意顔。その笑顔は観客を幸福にさせる。

恵介
オススメ度: ★★★☆☆
ミリキタニの猫(THE CATS OF MIRIKITANI)
2006年アメリカ映画、パンドラ配給、1時間14分
製作・脚本・監督・撮影・編集:リンダ・ハッテンドーフ
出演:ジミー・ミリキタニ
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/thecatsofmirikitani/
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