「夕凪の街 桜の国」
「生きとってくれてありがとうな」の呟き耳に残る

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   最近これほど泣かされた映画は無い。主人公にいつの間にか感情移入して、生きたいのに死と向かい合う運命に憤る。原爆が投下され父と妹を亡くした13年後の広島で、被爆しながらも母とともに生き永らえている26歳の女性、皆実。過去と現在の狭間に悩みながら生きているが、やがて原爆症の症状が現れる…。それから50年後の東京近郊。皆実の弟、旭の一家。二世の時代になって、被爆後遺症と結婚の問題でドラマが展開する。

(C)2007「夕凪の街 桜の国」製作委員会
(C)2007「夕凪の街 桜の国」製作委員会

   原爆が落ちて(「落とされて」と映画の中では言い直される)62年。その後に生まれた人たちが殆どとなる現在では、問題が風化しつつある。実際原爆を扱った映画は重苦しく、うっとうしく苦い味がする。映画で楽しみを得たい人は敬遠し、もっとワーワーキャーキャー騒げる作品を選ぶ。だが「しょうが無い」では済まされない原爆の悲劇に正面から取り組んだ映画は事実を知らしめ、問題を浮き彫りにし、後遺症に悩む人たちへの同情をかきたてる。やはりカバーしなければいけない分野なのだ。

   この映画は二部に分かれる。最初は「夕凪の街」。舞台の広島は夕方になると風がピタリと止まる凪。やはり被爆した母(藤村志保)と川べりのバラックに住む皆実(麻生久美子)。建設会社のOLで同僚の打越(吉沢悠)のまぶしい視線を受けている。だが皆実には13年前の原爆の日、妹ミドリの「熱い、熱い」と言って死んだ姿が焼きついていて、「うちはこの世にいてもいいんじゃろか」と自分だけの幸せに向き合えない。打越の優しさに皆実はようやく心を開いていくが、その体には異変が生じていた。

   それから50年後の桜並木の綺麗な東京近郊。皆実の弟、旭(堺正章)は隠居の身。毎日どこかに長距離電話をかけ、あまつさえある晩はバックパックの旅支度で家を出る。心配した娘の七波(田中麗奈)が偶然駅で出会った友人の東子(中越典子)と一緒に後をつけると、旭は広島行きの長距離バスに乗り込む。

   こうの史代のシリアスで啓蒙的なコミックを原作に、国井桂と監督の佐々部清が脚本を書いた。原爆投下から現在に至るまでの悲惨な影響を、被爆者とその子孫の生活を通して描く秀作。家族同士の思いやり、被爆を超えた男女の愛、「生きとってくれてありがとうな」の呟きが耳に残る。佐々部清監督は「四日間の奇蹟」や「出口のない海」を越える感動ドラマを作り上げた。

恵介
オススメ度: ★★★★★
夕凪の街 桜の国
2007年日本映画、アート・ポート配給、1時間58分、2007年7月28日公開
監督:佐々部清
出演:田中麗奈 / 麻生久美子
公式サイト:http://www.yunagi-sakura.jp/
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