「白い馬の季節」
現代に生きる「ジンギスカンの子孫たち」の誇りと哀しみを描く

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   相撲は白鵬、朝青龍と横綱が二人ともモンゴルだし、堺屋太一の日経連載小説「世界を創った男チンギス・ハン」を始め「蒼き狼」の映画・舞台とジンギスカンで持ちきり。これほどモンゴルが話題になったことは無いのではないか。


   しかし現代に生きる「遊牧民」モンゴル族の、伝統にしがみ付く心情を表した映画は今まで無いだろう。この「白い馬の季節」は、モンゴル民族が暮らす中国の内モンゴル自治区が舞台。スタッフ・キャスト総てモンゴル人だ。

   監督・脚本・主演はニンツァイ。遊牧民の出身で上海戯劇学院と北京電影学院を卒業している。映画は初監督だが、自身の心情を吐露する上質の映画に仕上げている。相手役で製作も兼ねるナーレンホアもモンゴル出身で北京電影学院演技科出身のエリート女優。二人は実生活でもパートナーだ。

   地球温暖化の影響か農耕地への転換政策のためか、モンゴルでも草原が少なくなり、砂漠化が進んでいる。映画の主人公、遊牧民のウルゲンは羊がバタバタ死に、子供の学費も払えない。おまけに自分の土地だと思っていた牧草地が国有地だと知り、更に気持ちが荒む。人々は遊牧を止め、羊を売って町に出て暮し始めるが、ウルゲンは妻や子供が何と言おうと「遊牧民」を捨てる気にならない。周りの男たちは白い老馬を手放せと勧めるが、自分はモンゴル帝国の子孫であり「馬上で生まれ馬上で死ぬ」民族の誇りを維持しようとする。

   長い歴史の間、土地を所有する意識を持たず、季節ごとに新しい牧草地を求めて移動する生活を続けてきた遊牧民たち。映画は、経済発展を続ける中国の中で昔ながらの生活を脅かされるモンゴル人たちの危機を描く。白い馬は遊牧民の象徴だろうか。実際、絵のモデルとして甲冑に身を固め馬に乗り、ジンギスカンに扮したウルゲンの誇らしげな顔は映画の中で唯一の晴れがましい姿だ。時代の流れに逆らう男の生き様だが、しかしそこは何とも抵抗しがたい。

   この作品を見ていてカーク・ダグラス主演の「脱獄」(62)を思い出した。邦題は味も素っ気もないが、原題は「LONELY ARE THE BRAVE」(寂しきは勇者なり)。ダグラスふんする時代遅れのカウボーイが望みを絶たれ、愛馬ウィスキーと国道をトボトボと歩いていてトラックにはねられる。

   「白い馬の季節」の最後に、ウルゲンが可愛がっていた老馬を自由にする儀式が行われる。トラックが往来する舗装道路を馬がゆっくりと歩き去る。その象徴的画面は、ダグラスの映画と印象が同じで心に焼きつく。

恵介
オススメ度: ★★★★☆
白い馬の季節(季風中的馬)
2005年中国映画、ワコー/フォーカスピクチャーズ配給、1時間45分、2007年10月6日公開
監督・脚本・主演:ニンツァイ
出演:ナーレンホア / チャン・ランティエン
公式サイト:http://www.shiroiuma.jp/
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