「僕がいない場所」
秋田の彩香ちゃん事件と重なる少年の姿

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   2回以上見る映画が結構ある。最近では「トランスフォーマー」「ダイハード4.0」「ファンタスティック4」などのアクションものだ。というのは、試写室では画面も小さく音響も迫力に欠けるという要因があるからだ。UIPの試写室で見た「トランスフォーマー」と、超大型スクリーンに椅子を揺るがすほどの大音響のお台場ビッグサイトのそれとでは天地の差があり、違う映画を見ている感じを持つ。

(C)2005 Dream Entertainment Inc. All Rights Reserved
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   アクション以外でも2度見るのは、やや難解な作品の場合だ。理解力が追いつかなかったり、時にはぐっすりオヤスミになってしまい、筋が分からなくなることもある。「僕がいない場所」は後者の方で、寝ている間の少年の心理の推移が分からなかった。

   母から見放された少年クンデル(ピヨトル・ヤギェルスキ)。預けられた孤児院ではトンチンカンな言動と極端な偏食で皆から除け者にされ、脱走して母(E・ユゴフスカ)のもとに帰って来る。母は刺青をした男の腕の中。堪らず外へ出たクンデルを追ってガウンを着た母が現れる。このシーンは秀逸だ。少年が一瞬母の胸元に飛び込むと、ガウンの下は全裸。小太りの身体に豊満な乳房、黒々としたヘアも目に入る。途端にクンデルは母に噛み付き、逃げ出す。少年の嫌悪の表れだ。

   街ではクンデルを知っている悪童どもに追い回され、母の男友達にも邪険にされ、親切にしてくれた渡し舟の男の所へ行くが、女友達とシンネコで入り込む余地がない。さ迷い歩き見つけたのは、河に浮かぶボロボロの廃船。その中に住み着く。岸辺を見ると裕福な家。その金持ちの一家で孤独な末娘クレツズカ(アグニェシカ・ナゴジツカ)だけが少年に関心を示し、一緒に遊び、語り会う。少年に訪れた一瞬の平安の時間だ。

   「お母さん」と叫びながら橋から突き落とされた秋田の彩香ちゃん事件は今関心を呼んでいるが、実の親なのに子供を突き放す母親は洋の東西を問わずいる。どこに行っても落ち着ける場所が無い、居場所が無い、母に見放された少年の心情を、映画は良く描いている。気になるのは風呂にも入っていないのに小奇麗なこと。たまに盗みをするにしても食料の心配を余りしないのも不自然。その部分のリアリズムには欠けているが、大人の世界から小突き廻される少年の姿は観客の同情を誘う。そんな環境にもめげず、毅然と生き抜こうとする少年の凛々しさに心打たれる。

   脚本・監督は女流監督のドロタ・ケンジェルザヴスカ。父親もポーランドの著名な監督で、その影響を受け、幼い頃から映画に興味を持っていた。長編劇映画は初めてだが並々ならぬ実力を披瀝している。脚本は新聞記事で養護施設を抜け出し、母親の元へ脱走する話を基にしたと言う。もう一つは貧困に喘ぐ少年が詩人になることを夢見ていたという記事。主役の少年と少女は学校や養護施設、田舎などをまわりながら見つけた。子役の熱演がこの映画を一層盛り上げる。

恵介
オススメ度: ★★★★☆
僕がいない場所(I AM)
2005年ポーランド映画、パイオニア映画シネマデスク配給、1時間38分、2007年10月13日公開
監督:ドロタ・ケンジェルザヴスカ
出演:ピョトル・ヤギェルスキ(少年) / アグネェシカ・ナゴジッカ(少女) / バジア・シュカルバ
公式サイト:http://boku-inai.jp/
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