大虐殺「証明」の障害とは 今も支配する「恐怖」

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   ポル・ポト――このところ、とんとお目にかからなかった固有名詞である。――番組は、カンボジアのポル・ポト派による大虐殺を裁く裁判が一筋縄では行かない背景を詳細に伝える。

   裁かれる被告たちは、元国家幹部会議長や元副首相など最高幹部5人。彼らを起訴するための証言や証拠を集める責任者であるフランス人、ルモンド捜査判事の発言の変化が、裁判の難航ぶりを如実に物語る。最初は、1年足らずで終わると考えていたのが、「当初の見通しは甘かった」となり、現在では、「いつ終わるのか、確かなことはなにも言えない」と変わってきている。

被告らが強気なワケ

   裁判が困難な最大の理由は、未だに残るポル・ポト派の大きな影響力だ。

   ルモンド判事は、かつてポル・ポト政権の要職にあった人物が多く暮らす町に出向いて裁判への協力を呼びかけるが、ポル・ポト政権擁護の答えしか返ってこない。また、別の町に住む、父親を殺された46才の女性は、「裁判に出たら、ばれるに決まっている……どんな復讐をされるかわからない」とおびえを隠さない。

   現地で取材する樺沢一朗記者は、「ポル・ポト時代は密告が奨励され、家族さえ信用できない極限状態におかれた。密告された人は連行され、多くは拷問のうえ処刑された。被害者は責任追及を長い間、待ち続けてきたが、ポル・ポト派の報復を恐れ、加害者と接触しないで生活してきたのも事実……カンボジアでは、どこの村でも加害者と被害者が混在して暮らしている」と報告する。

   加害者と被害者のミゾを埋めるための対話を促すNGOの取り組みも番組は紹介するが、両者の対立は根深く、実を結ぶとしても時間がかかりそうだ。

   こうした状況が被告を強気にさせる。元国家幹部会議長は、「悪いのは中堅幹部だ。私たちの知らないところで、気に入らない人たちを勝手に処刑してしまった。私は虐殺に加担していない。そうでないと言うならハッキリした証拠を見せてほしい」と語る。

日本の元検事も判事に

   日本からこの法廷の判事として参加する野口元郎・元東京地検検事は、「これだけ大きな犯罪が行われた中で法における裁きがないままなのは異常なこと。正義の実現、法の支配の強化という観点から、裁判はどうしても必要な手続きだ」と述べるが、表情と語り口は暗い。

   最後に樺沢記者が、「カンボジアでは、ポル・ポト時代のことを知らない若者が急速に増えている。政治的安定を最優先して学校で教えてこなかったからだ。が、裁判を機にくわしく教え始めている」と、先行きの明るさについても触れるが、裁判の前途は遼遠のような気がした。

   樺沢記者の熱意が成立させた企画だろうが、裁判の行方を左右すると思われるカンボジア政府担当者へのインタビューがほしかった。

アレマ

   <メモ:ポル・ポト派>

   1970年代、カンボジアで吹き荒れた共産主義政権による虐殺では、国民の5人に1人、150万人以上が犠牲になったという。当時の政権を率いたのがポル・ポト元首相であり、その一派はポル・ポト派と呼ばれた。元首相の死後、大虐殺を裁く「ポル・ポト特別法廷」が設置されたのは2年前2006年のことである

   *NHKクローズアップ現代(2008年6月26日放送)

文   ヤンヤン
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