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日雇い派遣「もっとひどくなる」理由

   「ワーキング・プア」の温床とされる「日雇い派遣」が、原則禁止の方向で動いている。引き金のひとつが、度重なる法令違反で廃業に追い込まれた「日雇い派遣」最大手のグッドウィル。ここからまた、新たな問題が見えてきている。

   日雇い派遣は今、全国で1日5万人といわれる。その7割が35歳未満。契約は1日単位、携帯電話で派遣会社とつながるだけ。不当な低賃金、単純作業の繰り返し……この悲惨な現実は、「セーフティーネットが機能していないことを示す」と国谷裕子は語りかけた。

青年は「虫けら同然」とつぶやいた

   来月の臨時国会では、労働者派遣法の改正が論議され、原則禁止になる方向だ。派遣を原則自由化した法律改正から9年。この間に進んだ現実は、禁止すれば元に戻るというものではなくなっている。

   グッドウィルの廃業のあと、労組東京ユニオンには沢山の相談の電話かかかってきた。特に地方からが多かった。グッドウィルは地方に700か所もの事業所をもっていたからだ。

   番組は、福島・喜多方市の青年(27)の例を伝えた。東京の建設会社を辞めて故郷へ戻ったが、仕事がみつからない。探し当てたのがグッドウィルで、1年半日雇い派遣で13か所を転々とした。1日7000円で通勤のガソリン代などいれると、貯金もできず。派遣先では、名前ではなく「グッドウィルさん」と呼ばれた。

   それが廃業になった後、さらに深刻な事態が起こった。雇用保険に入っていなかったために、青年は失業保険が受けられなかったのだ。雇用保険は自分で手続きをしないといけない。が、グッドウィルは、青年にこれを知らせていなかった。保険加入に伴う会社負担を避けていたのだ。グッドウィルでは加入者は「1人もいない」。

   青年は、「虫けら同然」とつぶやく。2か月仕事がみつからず、いま有り金は4000円。

「禁止は死活問題」の企業も

   厚生労働省の担当者は、「(法改正のとき)ここまでビジネスになるとは思っていなかった」といった。実業にうとい官僚的発想の典型であろう。当時のことを、グッドウィルの元幹部は、「電話が鳴りやまなかった。商品として企業に送っていた」という。

   派遣問題を追うジャーナリストの斎藤貴男は、「労働問題というより、人間が人間として扱われていないこと。もともと社会人になるときに問題があった弱い人たちが多い。それが企業の調整弁にされている」という。さらに、犯罪や自殺なども含めて、「日本がそういう社会になってもかまわん、労働者を食い物にしても企業が利益をあげればいいという政策を10年間続けてきた結果だ」と。

   その企業の側でも、日雇い派遣禁止が死活問題になるところがある。引っ越し業界は、価格競争が厳しいなか、日雇いによるコスト削減で生き延びてきた。社員はトラックの運転手1人だけで、積み込みは日雇い、到着先では別の日雇いを頼むーーこれがビジネスモデルとして定着しているのだ。全部社員でやるより、4割もカットできるという。

   倉庫業界も似たような状況にある。商品の納入は日によってばらつきがある。必要が「80人の日もあれば20人の日もある」というのでは、日雇いがなくなると立ち行かなくなる。

   さらに不気味な証言もあった。元グッドウィル社員は、「禁止になると、闇の企業が稼ぐ。すでに、中小企業から連絡がある」という。ウラの社会、やくざの動きである。

   斎藤は、「もともとグレーゾーンの業種だということ。これもきちっとしないと、もっとひどいことになる」という。搾取されるのは、同じ日雇い労働者である。

   斎藤はさらに「企業がもうかればいい訳ではないでしょう。人間をどうするか、社会全体で考えないと、社会の底が抜けてしまう」といった。

   経済雑誌の特集「格差世襲」のサブタイトルに「下流の子は下流?」とあった。社会の底は抜けかかっているのだ。

                                      

ヤンヤン

NHKクローズアップ現代(2008年8月27日放送)