日雇い派遣「もっとひどくなる」理由
「禁止は死活問題」の企業も
厚生労働省の担当者は、「(法改正のとき)ここまでビジネスになるとは思っていなかった」といった。実業にうとい官僚的発想の典型であろう。当時のことを、グッドウィルの元幹部は、「電話が鳴りやまなかった。商品として企業に送っていた」という。
派遣問題を追うジャーナリストの斎藤貴男は、「労働問題というより、人間が人間として扱われていないこと。もともと社会人になるときに問題があった弱い人たちが多い。それが企業の調整弁にされている」という。さらに、犯罪や自殺なども含めて、「日本がそういう社会になってもかまわん、労働者を食い物にしても企業が利益をあげればいいという政策を10年間続けてきた結果だ」と。
その企業の側でも、日雇い派遣禁止が死活問題になるところがある。引っ越し業界は、価格競争が厳しいなか、日雇いによるコスト削減で生き延びてきた。社員はトラックの運転手1人だけで、積み込みは日雇い、到着先では別の日雇いを頼むーーこれがビジネスモデルとして定着しているのだ。全部社員でやるより、4割もカットできるという。
倉庫業界も似たような状況にある。商品の納入は日によってばらつきがある。必要が「80人の日もあれば20人の日もある」というのでは、日雇いがなくなると立ち行かなくなる。
さらに不気味な証言もあった。元グッドウィル社員は、「禁止になると、闇の企業が稼ぐ。すでに、中小企業から連絡がある」という。ウラの社会、やくざの動きである。
斎藤は、「もともとグレーゾーンの業種だということ。これもきちっとしないと、もっとひどいことになる」という。搾取されるのは、同じ日雇い労働者である。
斎藤はさらに「企業がもうかればいい訳ではないでしょう。人間をどうするか、社会全体で考えないと、社会の底が抜けてしまう」といった。
経済雑誌の特集「格差世襲」のサブタイトルに「下流の子は下流?」とあった。社会の底は抜けかかっているのだ。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2008年8月27日放送)