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「正しい」歴史観と 「正しい」シビリアンコントロール

   この番組で取り上げられる広範な問題のなかでも、自衛隊の不祥事に対しては、とくに険しい口調で臨むように感じられる国谷裕子キャスター。今回は、その声が真冬の水ように冷たく、厳しい。

「自衛隊や防衛省が見過ごしてきた」

   今回の放送「空幕長論文はこうして発表された」は、田母神俊雄・前航空幕僚長の論文問題を取り上げたもの。田母神前空幕長は、ホテル・不動産事業などを手がけるアパグループが公募した「真の近現代史観」なるテーマの懸賞論文に応募し、見事最優秀賞に輝いた。が、その内容は過去の戦争についての政府見解を大きく逸脱したり、現憲法に強い不満を表明したりするなど、「極めて不適切」なものであった。

   そもそも田母神前空幕長はアパグループの代表と10年来の親交があり、この代表は民間人はまず乗れないはずのF15戦闘機を試乗したりしている――となれば、選考や懸賞論文自体、出来レース的な臭いが感じられ、少なくとも最優秀「論文」のクオリティからすると、残り230通の応募内容がかなり気がかりではある。

   それはともかく、番組や国谷キャスターは、論文そのものよりも、航空自衛隊トップが長年にわたり、独断的な思想信条、歴史観を隊の公式の場で大っぴらに語るばかりか、押しつけるような教育までしており、それを「自衛隊や防衛省が見過ごしてきた」ことを、より問題視しているようだ。

「戦前の反省を踏まえて、自衛隊が守るべきもっとも大切な原則である――(略)シビリアン・コントロールが機能してないのでは、という不安や危機感を社会に与えたのです」(国谷)

背景に与党政治家からの影響?

   番組の調べによると、田母神論文の原点は2002年に確認されたという。選りすぐりの幹部自衛官が学ぶ統合幕僚学校の校長に就任すると、その直後に「歴史観・国家観」なる講座を新設。今も続くその講座は自衛隊としては前例のない内容で、「大東亜戦争史観」「東京裁判の本質」「現憲法及び教育基本法の問題点」など、論文と親和性の高いものだ。

   靖国問題や歴史観などについて、同僚に積極的に語るようになり、空自幹部向けの部内誌には自身の歴史観を度々投稿。「今こそ正しい歴史観を持って、部下の指導に当たってほしい」と書き、部下に向けては論文と同じような内容を「訓話」する。

   くだんの懸賞論文にも、前例のない「異例中の異例。ちょっと理解できない」(自衛隊元幹部)ことがあった。航空自衛隊の中枢、航空幕僚監部が投稿を呼びかけるFAXを、2度にわたってすべての部隊に送り、2度も投稿を呼びかけていたという。

   こうした背景には何があったのか。政府見解を公然と否定するような与党政治家に影響され、心強く思っていた、のかもしれないらしい。次は、「危険人物」は自分だけじゃない、だから自分は「危険人物」などとは言えない、という論文でも書くのだろうか。

                               

ボンド柳生

   *NHKクローズアップ現代(2008年12月9日放送)