最初は「数年で辞める気持ち」 でも「40年」のプロになった訳

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   大きな金属の板を高速で回転させ、そこヘラを当てる。厚みもあって堅い素材のはずなのに、金属板はまるで粘土のようにクニャッと湾曲し始める。へら絞りといわれる職人技だ。今回のゲストはこの世界で40年にもなるプロ、松井三都男。

   松井は特殊なパラボラアンテナや人工衛星の燃料タンクなど、量産品ではなく一点物の制作を請け負う。工場で彼がおもむろに取り出したのはコーヒー缶の試作品。2本の特徴的なラインが浮き出ていた。それが実際に製品化されたのかを尋ねても

「わかんない。俺あんまりコーヒーやなんか買って飲まないから」

と返す。請け負った仕事は完璧にこなすけど、それがどう使われるかは気にしないよ、と言っているよう。いかにも職人然としていて、潔い。

   番組中、松井の左手の指が2本しか無いことに気づく。18歳の時、作業中の事故によるものだという。少年時代の彼は勉強が苦手で、高校受験に失敗。定時制に通うもののすぐにやめた。その後、工場で働くようになる。指を失ったのはその半年後の出来事だ。

   だが事故の後も、仲間は何もなかったように仕事をさせてくれた。会社の社長は毎日夕飯を食べさせてくれた。数年で辞める気持ちで始めたこの仕事だが、人情の温かさを知り、「俺はここで生きていこう、この恩は仕事で返す」と心に誓ったという。

   以来、指のハンデを技術で補い、金属と対話を続けてきた松井。「満足したら、職人は終わり」彼はこう言う。

「完全なんて到底出来やしないんだけど、目指してやれば、だんだんだんだん腕は上がってくじゃないですか。だから完全目指してやらなきゃいけないと思うんだよね」。

   人間は色々なモノと共に歩んでいく。人・物・仕事……。好きな仕事をそのままライフワークに出来る人もいれば、松井のように後からそれに気づく人もいる。彼のように、誇れる仕事ができる人になりたいものだ。

慶応大学 がくちゃん

   * NHKプロフェッショナル 仕事の流儀(2009年1月6日放送)

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