「行政の紹介」行ったら「姥捨て山」 高齢者押し付け合う「お役所」

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   貧しい人たちの貧しさを利用して、カネを絞りとろうとする「貧困ビジネス」――。以前、この番組でも取り上げていたが、今回の放送「介護つき住宅の落とし穴」では、そのビジネスチャンスを行政が紹介し、そこに「送り込んでいる」(国谷裕子キャスター)ところが新味である。なお、国谷キャスターは「送り込んだ」では表現が強すぎると思ったのか、その後は「紹介した」にとどめていたが、むしろ「処理させた」とでも言ったほうが適切だっただろう。

「あんなひどい所に区がなんで入れたのか」

   東京都大田区で生活保護を受けて一人暮らしをしていた81歳の男性。車椅子生活の要介護状態になり、区の福祉事務所に紹介されて、千葉県にある介護つき老人ホームに入居した。行ってみると、まるで話が違う。八畳の部屋に男女3人が詰め込まれ、車椅子では身動きもままならない。外部との連絡は取れない。介護サービスの入浴は1度もなかった。「姥捨山みたいなとこだったね。カネ払って姥捨山……」。このホームは、取りっぱぐれのない生活保護費や介護保険をきっちり頂戴する一方で、提供すべきサービスは勝手に大幅割引していたのだ。

   この男性は、住民票を東京都に残したまま、千葉県の老人ホームに入居していた。この男性のように、東京都の紹介を受け、住民票を残したまま、近県の老人ホームに入居しているケースは、判明分だけで478人に上る。で、行ってみたらとんでもない蟹工船的なトコロだったというトラブルが多発しているらしいのだ。「(区が)あんなひどい所になんで入れたのか、聞きたい」(港区に紹介された埼玉県の施設を逃げ出した女性)

   こうした背景には、都内の施設不足がある。生活保護を受けていた人が高齢になり、要介護状態などになったときに入れる施設がまるで足りないのだ。大田区の福祉事務所の言い分では、苦肉の策として、生活保護費などを区から支給したまま、他の自治体にある、よく知らない自称老人ホーム(無届け)に受け入れてもらっていた、ということらしい。

   「ほかに選択の余地がなく、千葉の施設に一筋の光が見えたという気持ちだった」と担当者。

「財政負担しろと言われても、困る」

   しかし、遠く離れた場所の施設は実態把握が難しく、行政の監視の目も行き届かない。そもそも、実際に住んでる自治体に住民票がないのは、コンプライアンス面でマズいんじゃないか。生活保護費などは、現地の自治体が負担すべきだ――。そう考えた東京都当局は、都内の福祉事務所に対して「老人ホームがある自治体に住民票を移させろ」との指令を出した。この際、老人たちを送り込んだ事情は忘れて現況優先、受け入れ先の自治体に責任を押っ被せようというわけだ。

   受け入れ自治体のほうは、それじゃあ話が違う、と猛反発。たとえば、茨城県かすみがうら市は、都側が負担する前提で80人もの老人を受け入れているのであり、その全員が住民票を移せば、介護保険給付だけで2億円も負担が増える見込みだという。「現在、市の介護保険給付費は22、3億円。それが急に1割もアップする。昔から居る市民には理解できない話だ」(長寿福祉課)

   「住民票を移す、財政負担しろと言われても、困る。そういう前提なら、これまでの協議は考え直さなければ」(同課)として、住民票移動を強行するつもりなら、いま預かってる老人たちは送り返すぞと脅しをかける。区側はいまさら返送されても、ほかに受け入れ先もないし、どうしようもないと困惑しているのだという。

   なんだか産廃や核廃棄物の処理をめぐる都市VS地方の対立でも見るようだが、これはたしかにいまの日本国内における人間の話である。

                                

ボンド柳生

NHKクローズアップ現代(2009年2月3日放送)
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