2024年 4月 19日 (金)

新潮VS朝日「襲撃犯告白」バトル 「これで終わり」じゃ納得できない

建築予定地やご希望の地域の工務店へ一括無料資料請求

   私事で恐縮だが、本日(2月26日)、祥伝社から、私がプロデュースした「不良中年新書シリーズ」の第一弾が発売された。その中の1冊は、私が書いた『競馬必勝放浪記』。

   この本は、かつて競馬場に、山口瞳さん、大橋巨泉さん、本田靖春さん、寺山修司さんなどが集い、馬券を競い、語り合った「競馬が輝いていた時代」の思い出と、これまで出てきた競馬必勝法について考察している。私の拙い必勝法も披露しているので、ぜひ、ご購読を。

   今週のポストが取り上げている「杉本彩『女が涙する熟年男のインテリジェント・セックスの奥義』」も、このシリーズの1冊である。帯には、あの佐藤優さんが賛辞を寄せている。「セックスの世界にひそむインテリジェンスの深さを、杉本彩さんは教えてくれる」。こちらもぜひお買い求めを。

新潮が「反駁」記事

   さて、今週も話題は、新潮が連載していた「朝日新聞阪神支局襲撃犯の手記」に集まった。朝日新聞が2月23日付の一面と中面の1ページ全部を使って、この手記を検証し、「真実性なし」と決めつけたことに、新潮側がどう反論するのか。

   朝日側は、実行犯と名乗る島村征憲氏に網走刑務所で面会したとき、理解しがたい犯行動機や凶器に使った銃についての知識がないことをあげ、実行犯とは思えなかったとする。また、新潮側が、掲載する直前に朝日に対して、犯人の服装、犯人が襲撃の際、「5分動くな」といったかどうか、緑色の手帳はあったかなど5項目の質問をしてきたが、すべてについて、客観的事実と違っていると回答したのに、「無視して」連載を始めたと批判している。

   朝日のこの事件を担当した取材班は、「連載を読み進めるうち、『いい加減にしてほしい』と怒りがこみ上げてきた。事実と明らかに異なり、創作としか思えない話が延々と続く内容は、読者をいたずらに混乱させるだけだ。(中略)事実に基づかない記事は、被害者の名誉を傷つけ、遺族の思いを踏みにじった。『虚報』の責任は、証言者だけではなく新潮社も負わなければならない」と憤る。この記事が、売らんがためのでっち上げだとすれば、朝日側の怒りはもっともだろう。

   新潮内部の話によると、この記事の取材は社内でも極秘にされ、早川編集長直轄で、事件ものに強い編集者と進められてきたのだそうだ。

   私も現代の編集長時代、オウム真理教による坂本弁護士一家殺害死体遺棄事件の実行犯、岡崎(現姓・宮前)一明(最高裁で死刑が確定)の手記を掲載したことがある。当時は、坂本弁護士一家が忽然と消えてしまったのは、どうやらオウムの仕業らしいとは噂されていたものの、神奈川県警も確証を掴むまでには至っていなかった。記者から、その情報がもたらされ、デスクと3人の秘密事項として、このプロジェクトを進めた。

   話を聞き終わってから、彼の話の裏付けをとるため、あらゆる手を尽くした。ここでは詳しくは書けないが、3人を埋めたとされる場所へ記者に行ってもらって、岡崎の話と距離や時間、地形が一致するのかも調べた。われわれはジャーナリストであって警察ではないから、「捜査」ができるわけではない。私は、十分な裏とり取材も含めて、彼の話は真実だと信じるに足りうると判断したが、掲載するにあたって一抹の不安は、正直あった。

   発売され、大きな話題になったが、心ないテレビのコメンテーターから、この手記はでっち上げだというようなことをいわれたこともあった。しかし、岡崎たちが逮捕され、裁判の中で、この手記の内容が真実であったと証明された。

取材過程の公表を

   そうした経験からいわせてもらえば、連載を読む限りでは、新潮がこの手記を掲載するにあたって、どれだけ裏付けをとったのかが、見えてこなかった。

   新潮側は、どんな反論をするのか。期待を持って買ってみたが、たったの2ページだった。反駁するなら、巻頭、10ページぐらい割いてやってもらいたかった。内容も、朝日の言葉の揚げ足とりで終始している感がある。朝日は「現場の状況と明らかに異なる点が少なくとも10項目あった」というが、その10項目を示していないではないか。朝日は、たった2時間半の面会で「犯人ではあり得ないと確信した」というが、こちらは数十時間密着取材した。朝日は、検証ではなく、「手記は間違いだらけという」というイメージを与えようと必死になっているように思える、などなど。

   最後に、「秘密の暴露となる可能性のある材料については全て手記内で提示している」と書いている。裏とりは時間の長さに比例しないことはいうまでもない。ましてや、これまでの連載の中で出ている材料は、状況証拠ともいえないものばかりである。

   緑色の手帳、犯行に使ったアジトの住所や散弾銃。これらの一つでも出せば、この論争に終止符が打たれるのだ。そんなものを出せるわけないだろうというのなら、なぜこのような人間の一方的な話を掲載したのかが問われる。

   新潮の肩を少しもてば、朝日側が、連載が終わるのを待って検証記事を載せたのは、もしかしたら何か出てくるかもしれないと「危惧」したのかもしれない。事件直後から、なぜ阪神支局が狙われたのか。小尻記者たちは、何か危ない事件に首を突っ込んでいたのではないかと噂された。それが、北朝鮮のニセ金情報だとは思わないが、この手記の中に、朝日側をハッとさせる何かがあったのかもしれない。

   何はともあれ、この手記がでっち上げだとすると、ただでさえ落ち込んでいる週刊誌の信用と部数が、更に落ち込むかもしれない。新潮は、社の威信をかけて、この告白手記が真実であると証明する義務がある。今度は、新潮側が、この記事の取材過程や原稿作成、掲載に至までを全て明らかにして、世に問うべきであることは、これまたいうまでもない。


元木昌彦プロフィール
1945年11月24日生まれ/1990年11月「FRIDAY」編集長/1992年11月から97年まで「週刊現代」編集長/1999年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長/2007年2月から2008年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(現オーマイライフ)で、編集長、代表取締役社長を務める
現在(2008年10月)、「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催。編集プロデュース。

【著書】
編著「編集者の学校」(講談社)/「週刊誌編集長」(展望社)/「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社)/「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス)ほか

姉妹サイト

注目情報

PR
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中