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「環境で経済振興」進むアメリカ 「技術はあるのに…」指くわえる日本

   オバマ大統領が打ち出した「グリーン・ニューディール」政策は、「環境対策で経済振興」というが、実像がいまひとつわからない。環境と経済は相反するのでは? しかし、アメリカはすでに動き始めていた。

   先端をいくのはシュワルツネッガー知事のカリフォルニア州だ。地球温暖化への危機感から新たな法律をつくって、温暖化ガスの排出を規制し、自然エネルギーへの転換目標を設定した。中心は一般家庭への太陽電池パネルの普及で、100万世帯を目標に1700億円の助成をつけた。

「文明の大きな転換点になるかも」

   その結果、パネル取り付け工事の技術者の養成が必要になり、新たに大量の雇用が生まれている。そのパネルを作るオレゴン州の工場では、増産に500人を雇用したが、いずれ1000人になるという。

   またテキサス州では、風力発電の風車が日に1本のペースで立っていた。地主がまとまって1万5000ヘクタールの土地に、風力発電会社を誘致したのだ。過疎の農村が2年で世界有数の風車の町になった。目下失業ゼロ。移り住む人も増えて、小学校に転入生があった。

   オバマ大統領は、「10年間で1500億ドルを投じて500万人の雇用を生み出す」といった。その中身はこういうことだったのだ。「環境をビジネスに」というアイデアはすでにあった。またカリフォルニアもすでに動いていた。ブッシュ前政権が後ろ向きだったこれらに、オバマ大統領は、国のレベルで支援に踏み切ったというわけだ。

   日本総合研究所会長の寺島実郎は「ひょっとして、文明の大きな転換点になるかもしれない。グリーン・ニューディールが革命になるかどうか」という。「電力についてはこれまで、専門家ほど『自然エネルギーは主食にはならない』といっていた。大発電所からの供給が主だと。しかしいま、分散化が論議になっている」と。

   逆転の発想である。「スマート・グリッド」という考え方は、各家庭で発電した電力を地域で融通し合う。それには、各戸の発電量と消費量を厳密に把握しなくてはならない。デジタル管理が要る。すでに実験がコロラド州などで始まっている。

   電気大手のゼネラル・エレクトリック(GE)とネット検索のグーグルが提携して乗り出した。究極は、家庭で充電できる自動車を、「蓄電池」にしてしまおうというものだ。自動車が発電所になる?

「縦割りにとらわれてはいけない」

   むろん、これらが実現するには、電力会社が家庭電力を高値で買い取る「制度」が必要だ。当然電力会社の電気料にはねかえるから、政治的な判断が必要になる。しかし、カリフォルニアも含めて、みなこれに踏み切っている。反対する産業界と世論をバックにする州政府の勝負である。

   これらの土台になる技術についていえば、電気自動車用の蓄電池にしても、太陽光発電のパネル、風力発電から細々としたものまで、日本の技術は世界の最先端をいく。かつてのオイルショックで、代替エネルギー開発に助成した結果である。

   しかし、例えば「買い取り制度」の導入を躊躇したために、家庭用の太陽光パネルの普及は進まなかった。いま発電量でドイツに抜かれ、普及ではスペイン、アメリカに追い抜かれた。「総合戦略を組み立てる力の差だ」と寺島はいう。

   経済産業省は先に「固定価格買い取り制度」を「太陽光発電に限って」導入することを決め、電力業界も同意した。不況に背中を押された形だ。しかし、風力を推進する環境省は口を出せない。縦割りの壁だ。

   環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也は、「経済効果は大きい。改革はスピードが命。縦割りにとらわれていてはいけない」という。結局はそれだ。

   番組は触れなかったが、温室効果ガス削減について日本経団連などが、新聞の意見広告で「3%削減でも1世帯あたり105万円の負担」と異を唱えた。これに斉藤環境相が「大変悲しい」と語ったのは、この放送の日だった。

ヤンヤン

   *NHK 環境で不況を吹き飛ばせるか? 動き出したグリーン・ニューディールの挑戦(2009年3月19日放送)