「おいしいホルモン」強要女に思う グローバルスタンダードと戦争

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   最近また話題になり始めているホルモン。ホルモン嫌いな私を、ゼッタイに好きにさせてみせる! と、ホルモン通の知人が有名な店に連れてきてくれた。

   美味しい新鮮なホルモンを食べれば、ゼッタイに好きになる! と豪語する人は多く、さまざまな店に連れてきてもらったが、私は一向にホルモンが好きになれない。結果は変わらないので相手に申し訳ないと思いながらも、ビールを飲んでいると、隣の席から女の子の甲高い声が聞こえてきた。

「これ、ゼッタイ美味しいから食べてみて~!!」

   人は、自分が好きなものを人に勧めたがる。

「でも、苦手なんだよ。いいよ、私は」

「世界はたくさん、人類みな他人」

   わかる。誰にだって、好きなものと嫌いなものがあるのだ。

「こんな美味しいのにホントモッタイない! ホラ食べてみてよ!」

   あらあら、女の子はムリヤリ相手の口にホルモンを入れ込んだ。

   しぶしぶ顔をゆがめながら「オイシイね」という相手の顔をみて、満足げな表情で「ね、私が言ったとおり、オイシイでしょ」とお構いなしに言った。

   隣の席のやりとりを見て、ある映画監督が話してくれたことを思いだした。監督は静かな声でこう言った。その昔「世界は一つ、人類みな兄弟」と言った人がいたがあれはウソだ。正しくは「世界はたくさん、人類みな他人」だと。

   海外でドキュメンタリー作品を数多く撮影してきた監督は、世界中の人々と触れ合う中で、世界はひとつではいけない、人類は、様々な価値観をもつバラバラな他人でしかない。と痛感したそうだ。

   考えてみれば、最も小さな社会体である夫婦ですら結局は他人同士。なのに、どうして人類がみな兄弟などと言えようか……他人は自分とは違った価値観や好みを持っている。お互いのスタイルを尊重しあうこと、それこそが個人を大切にする個人主義であり、コミュニケーションで最も必要なのだと。

   しかし、バラバラな他人同士の世界を、一部の人は『グローバルスタンダード』というアメリカ式な考え方を建前に、一つにまとめようと今でも躍起になっている。そういえば、『第三世界』という言う方を最近は聞かなくなった。

   あらゆる地域で人々が長年培ってきたスタイルを認めずに、自分たちの価値観を押し付けようとする。その時に戦争は起こる。

   監督は笑顔でこう言った。

「世界をひとつになんてしようと思うからいけないんだよ。バラバラの世界が沢山あったほうが、誰もが幸せだよ。世界をひとつにしようと思うのは、経済に全ての基盤を置いた結果だよね。お金のパワーは、人の小さな幸せをすっかり飲み込んでしまうんだよ」

   隣の席のホルモン嫌いの女の子は、必至になんとか飲み込むことに成功した。ぼんやり彼女を見ながら監督の話を思い出していると、私の前にドカっと何かが置かれた。ホルモン通の知人が満面の笑みで私に差し出してくれている。

「ハイ、これが激ウマの刺身ね! 食べなきゃ損するよ! ホントうまいから!」

モジョっこ

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