役所広司は「監督」も成功するか(ガマの油)

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(C)2008 ガマの油製作委員会
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   <ガマの油>『うなぎ』『EUREKA』など、世界にも認められた数多くの作品で主役を演じ、世界にも名が通り、日本映画界を背負う俳優、役所広司。今作は、初の監督作品となる。

   監督自身が演じる主人公拓郎は、1日に何億もの大金を動かす株の売買を生業とし、気立ての良い妻(小林聡美)と優しい性格である息子の拓也(瑛太)と、麻布の豪邸で3人暮らしの生活を送っていた。ある日、拓也は親友のサブロー(澤屋敷純一)が少年院から出所する日に、彼女の光(二階堂ふ み)とのデートを切り上げ、サブローを迎えに行く途中で交通事故に遭ってしまう。

   光が拓也の携帯電話にかけ、それを拓郎が受け取ったが……

   冒頭10~15分で、この映画が及第以上であることを確信した。栗田豊通のカメラが良い! 引きショットと、寄りのショットの巧みな使い分けが気持ち良く、「画そのもの」で飽きさせない。なんでもない場面での役者の顔へのカメラの接近や、特別意味合いのない長回し、だらだらと伸びたカット尻と、「 画」でダレてしまう日本映画に食傷気味だったこともあり、おもわず嬉しくなってしまった。

   カメラワークに惚れ惚れしていると、物語はあらぬ方向に進行し、何処に向かっているのか分からず、ドタバタしながら、中心が散らばり、「あれ? コメディなの?」と思ってしまうシーンなど、観る者の視点を惑わしていく。が、それは、いたずらに惑わしていない。物語の軸が不明確のままであるシーンの断 片断片が、物語の全体を、静かに、ゆっくりと、構築していく。物語は、毛色を変化させながら進行し、観客の期待、視点を良い意味で裏切り、気付いたら不思議な魅力に包まれた『ガマの油』の世界観の中に引きずり込まれている。

   息子の突然の交通事故による、拓郎の心境変化が物語の軸であり、お金中心の価値観からの人間性への回帰という物語の流れは、ベタである。が、この作品は、物語の組み立ての功を見るべき映画ではない。

   ガマの油売りの夫婦と出会った拓郎の少年時代のシーンや、形而上的世界を描いたポップアートを観ているような美しいシーンなど、1つのシーンが1つの映画のように独立していて、その奇天烈な物語の構成と、拓郎のはちゃめちゃなキャラクターとのコントラストが、「観ていて何が起こるか分からない」という楽しさを生み出している。

   ノスタルジックで、なんとも人間くさい映画だ。役者の演技も実に人間くさい。それは俳優出身監督ならではの「色」なのだろう。新人役者やK-1ファイターを主役級の役に抜擢したのもおもしろい。

   物語の全体的な骨の太さに、今村昌平監督を感じ、計算し尽くされた奥行きのある広い空間のショットに、黒沢清監督を感じる。映画に対する役所広司監督の愛が垣間見えるラストなど、見所は多い。<テレビウォッチ>

川端龍介

   オススメ度:☆☆☆☆

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通称ジャナ専。東京都豊島区高田にあるマスコミの専門学校。1974年の開校以来、マスコミ各界へ多くの人材を供給し続けている。

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