放射能と破滅と再生 「度肝抜かれた」ワケ(USB)

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配給:NEGA Co.
配給:NEGA Co.

   <USB>舞台映像の制作、演劇の作・演出、自主制作映画などで、各国の映画祭で高い評価を受けている奥秀太郎監督の最新作。

   茨城県つくばのとある田舎町。のどかで平和な風情が漂う一方、町のいたるところに残された立ち入り禁止区域、放射能漏れを知らせる町のアナウンス、など過去に起こった原子力発電所の臨界事故が尾を引き、重苦しい空気も漂う。

   この町に暮らす孤独な青年祐一郎(渡辺一志)は開業医をしていた亡き父の跡を継ごうと、浪人生活を5年続けているが、まったく身が入らない。予備校にはほとんど顔を出さず、恋人の恵子(小野まりえ)に録画してもらう授業のビデオをたまに見るくらい。その上、ギャンブルにハマりヤクザから多額の借金を作り、麻薬の売買をしてどうにか返済しているありさま。そんな祐一郎に友人の甲斐がアルバイトを紹介する。それは放射能の臨床実験であった。

   主演は2007年公開の『カインの末裔』と同じ渡辺一志が務め、銀杏ボーイズの峯田和伸、大杉漣、桃井かおり、大森南朋など個性的な役者が脇を固める。特に桃井かおりの演技が印象的だ。麻薬、拳銃、放射能など、ある意味非現実的な世界が祐一郎を包んでいるのだが、家に帰れば桃井かおり演じる息子思いの『普通のお母さん』がいる。このお母さんが非現実的な世界を現実につなぎ止める役割を見事に果たしている。非現実と現実のリンクがしっかりしているから、リアリティが増し、本作に漂うなんともいえない不気味さが生まれている。過去の出演作で見せてきた独特の匂いを消し去って、普通のお母さんに徹した桃井かおりという女優はやはり素晴らしい。

   また、放射能に汚染された町という舞台設定は、祐一郎、その恋人の恵子、友人の甲斐ら若者たちの目に見えない不安、閉塞感をかもし出す。一癖ある町の描写がしっかりしているから、麻薬や拳銃に手が伸びる登場人物たちにも不思議と納得してしまうのだ。

   『カインの末裔』では川崎という工業地帯を舞台にし、『汚染された町』という設定でも本作と共通している。ただ、カメラが終始川崎の町に留まり続けた『カインの末裔』と違い、本作ではそれに加えて幻想的な桜の描写などが加わり汚染された町から抜け出そうという姿勢が感じられる。それは、破滅に向かう若者の姿を描いた『カインの末裔』に対し、本作『USB』は破滅と再生をテーマにしているからであろう。もちろん奥秀太郎作品であるから、一口に再生といってもハッピーエンドといえる終わり方では決してなく、奥監督ならではの再生が用意されている。

   本作は過激な描写や散りばめられた隠喩などインディペンデントの強さをしっかりと残しながらも、的確なカメラ割り、ナレーションの扱い方などをうまく使うことで観客を放っておくことはしない。インディペンデントと商業映画の要素が絶妙なバランスで織り交ざっている本作。度肝を抜かれた。<テレビウォッチ>

野崎芳史

   オススメ度:☆☆☆☆

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日本ジャーナリスト専門学校
通称ジャナ専。東京都豊島区高田にあるマスコミの専門学校。1974年の開校以来、マスコミ各界へ多くの人材を供給し続けている。

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