太宰治の文体「ブログに近い」 今の若者にウケる理由

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   <テレビウォッチ>「走れメロス」の朗読(近藤芳正)から始まった。今2009年が生誕100年、太宰治が若者に人気だという。なぜだろうと、面白い探索だった。

   国谷裕子が「印象深い表現が多い」といくつかを挙げた。

「子どもより親が大事と思いたい」
「富士には月見草がよく似合う」
「恥の多い生涯をおくってきました」

   ……たしかに、昔から若者はこうした言葉に惹かれ、だれでもかかるから「はしか」ともいわれた。

「人間失格」前年の5倍に

   しかし、いまの現象は少し違うらしい。代表作「人間失格」は、昨年の発行部数が前年の5倍に、「走れメロス」は7倍に。この秋までに、4作が映画になる。

   それまでマンガしか読まなかったが、2年で全作品を読破したという18歳がいう。「オレと会話しているような感覚」と。また、読書感想文コンクールで入賞した女子高生(18)は、「大人って、『若い頃はみんな悩むよね』というけど、太宰は一緒に悩んでくれるような。同じに悩む大人がいるのは衝撃だった」という。

   共立女子大の米沢幹一教授は、その文体が今のブログの文体に似ているという。ある女子大生のブログのおしゃべり、とりとめもなく句点だけで延々と続く文体は、たしかに似ている。「昔よりいまの若者の方がすんなりはいっていける」という。

   また、立大の石川巧教授は、感想文コンクールの入選作に「人間失格」が多いのが、バブル崩壊直前と現在(ピーク)であることに注目する。「社会に漠然とした不安が広がるとき人間失格が読まれる。社会が過剰な適応性を求めるとき、社会の不適合者としての自分が共鳴する」と。

   太宰は津軽の裕福な家に生まれ、酒、薬の放蕩生活をおくって勘当され、人の道にはずれることもやり、そうした葛藤をそのまま作品にした。

「日本人で良かった。太宰を日本語で読めて」

   作家の井上ひさしは、その魅力を「とにかく面白い」という。太宰を引用して「ただただ本流の小説を書きたいだけ。面白い筋書きだよ。弱くてやさしい人間が、面白い筋書きの中でのたうち回りながら生き生きと生きる」と。「これが太宰の理想ですね」

「太宰の苦しみは自分の苦しみだと、面白い筋書きで書かれると、あたかも自分に向けられているような気になる」

   太宰の「うまさ」について「われわれのいう『つかみ』です」と、「駆け込み訴え」の書き出しを朗読で聞かせた。

「申し上げます、申し上げます……あの人はひどい、厭な奴です……ずたずたに切りさいなんで殺してください」。読むものをいきなりわしづかみにする。井上は「いきなりこれですからね」

   その文体は、太宰だけのものだと井上はいう。津軽言葉の昔話、父が呼んだ歌舞伎、義太夫、落語……話し言葉のテクニックが、その後出会った近代の散文を飲み込んでしまった独特のものだと。

   明大の伊藤氏貴講師はある高校で、太宰の文章とある若者の文章とを並べてみた。秋葉原の無差別殺人犯がネットに残した言葉、これが驚くほど似ていた。しかし、太宰にはやさしさがあった。「一筋の光がある」と伊藤講師。「最後はポジティブ」と高校生はいう。

   井上も「人にはみな小さな宝石があって、それを発見し書くのが小説家の仕事。太宰が書く小さな宝石を、若者は自分のなかに見い出しているのではないか」「日本人でよかった。太宰を日本語で読めて」とまでいう。

   別の番組で、太宰の妻が「彼は自分のことだけを書いていました」というくだりがあった。ひとつ間違えば、「ただの厭な奴」。それくらいでないと、書けないものなのかもしれない。

                         

ヤンヤン

NHKクローズアップ現代(2009年6月22日放送)
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