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「多子若齢化」が揺るがすイラン イスラム体制と若者たち

   <テレビウォッチ>イランの混迷が深い。大統領選挙の結果を巡る混乱で、デモの弾圧で死者まで出たために、批判の矛先が体制そのものに向かってしまった。イスラム革命から30年。新たな変化の始まりだという見方もある。

   選挙では、若年層が支持する改革派のムサビ元首相の善戦が予想されたのだが、結果はアフマディネジャド大統領の圧勝だった。改革派は不正があったと抗議のデモや集会を繰り返した。これが発端だ。

最高指導者に批判の矛先

   選挙から1週間経った6月19日、最高指導者ハメネイ師が疑問に答えないまま「不正はなかった」と大統領の再選を認め、さらに「大統領とわたしの立場は近い。抗議行動をやめないのなら、結果に責任をとってもらう」と発言した。

   これで抗議行動はさらに大きくなり、一方治安当局の鎮圧も強化されて、この日だけで10人の死者が出た。当局は外国メディアの取材を封じ、情報の流れも断ったが、市民はインターネットを通じて映像を流して対抗する。

   イラン情勢をウォッチしているハーバード大の研究チームによると、ネット情報にはこの時点から、ハメネイ師への非難が頻繁に出てくるようになったという。大統領への批判が体制批判に変わったのだった。

   イランは、立法、行政、司法の上にイスラム法学者がいるという特異な体制だ。その法学者の頂点にいる最高指導者に、批判が向けられるなぞ考えられないことである。

   ある滞日イラン人は、「公平であるべき最高指導者が、大統領に味方し、改革派を不当に扱った。こんな不公平は初めて」「国民に銃を向けるとは思いもしなかった。市民が死んだだけでなくイランの自由が死んだ」という。

   NHKテヘランの中山秀雄記者は、ハメネイ師の言動について、「混乱を早期に押さえ込もうとしたのだろうが、対応が拙速だった」といった。現在、票の 10%の数え直しが始まったが、選挙のやり直しはしないという。

イラン革命の「変質」

   東大の山内昌之教授は、「最高指導者は超然として中立のはずが、1つの派に組した。また、シーア派は迫害を殉教ととらえる。市民の殺害に最高指導者につながる連中が関わったとなれば、問題は深刻だ」という。

   さらに、体制内部にも対立が生じている。最高指導者の任免権をもつ専門家会議のラフサンジャニ議長(元大統領)がムサビ元首相を支持して、ハメネイ師と対立した。選挙の討論会では、アフマディネジャド大統領が、公然とラフサンジャニ議長を批判する一幕があった。これも従来は考えられないことだ。

   ラフサンジャニ議長は現実感覚と調整能力のある政治家で、事態収拾への期待もかかるのだが、支持基盤は中間層。対してハメネイ師/アフマディネジャド大統領は貧困層だ。この亀裂は深い。

   また、12万人といわれる革命防衛隊の独走が、軍事政権化への懸念を生んでいる。ハマス、ヒズボラへの支援も核開発も治安維持も、彼らが中心だ。改革派は、ハメネイ師らが、これを自分たちの力にしていると批判する。

   今回の騒動の中心は若い世代だった。革命も知らなければイラン・イラク戦争もほとんど知らない。変化への欲求が根底にある。

   山内教授は、「イランは日本と違って、多子若齢化だ。彼らを無視しては体制が成り立たない。イラン革命も30年を経て、変質が始まったのではないか」とみる。

   イスラム過激派の原点は、イラン革命だ。これによって、世界がどれだけ変わったか。あらためて、30年の歳月を思った。

                                        

ヤンヤン

NHKクローズアップ現代(2009年6月29日放送)