松の進化待つしかない? 松枯れと農薬空中散布問題

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   <テレビウォッチ>「松枯れ」が全国で猛威を振るっているという。国谷裕子キャスターの説明によれば、「毎年平均、甲子園球場987個分」の松林が失われる深刻な状態らしい。日本における松枯れ被害は、明治38年(1905年)の長崎に始まり、九州、中国地方と次第に北上、去年(2008年)、ついに青森まで至ったそうだ。

   番組は、原因の1つを教えてくれる――米国から来た体長1ミリの、マツノザイセンチュウ。このセンチュウはマツノマダラカミキリに寄生する。松の枝をエサとするカミキリムシがセンチュウを松まで運ぶ。カミキリムシの食べたところからセンチュウが侵入、松の細胞を破壊し、その中身が水の通る弁を塞ぎ、松が短期間のうちに枯れてしまうのだ。

薬剤注入は費用160倍

   マツノマダラカミキリを駆除するために、各自治体は1973年から国の補助金を受け、農薬の空中散布を推し進めてきた。それが最も有効な方法と見られたからである。しかし、難題が持ち上がる。

   空中散布によると思われる症状が、子どもを中心に各地の住民から訴えられるようになる。不整脈、手の震え、目やノドが痛む……。中でも島根・出雲市では、目がかゆい、痛いと言う声が相次ぐ。市で把握しただけでも、1285人が健康被害を訴え出たという。

   ここで番組は、農薬の安全性を主張するメーカーと、出雲市の健康被害原因調査委員会の論議の模様を盛り込む。そのやりとりはスリリングで見応えがある。結局、データの不備を指摘された農薬メーカーが1歩引き、市は空中散布を取りやめる。全国各地でも空中散布を自粛する自治体が続出、3年前に比べて3割減少したと伝えられる。

   といって、変わるべき手立てが見つかっているわけではない。出雲市では薬剤の樹幹注入を施しているが、1本につき1万円以上、空中散布の160倍の費用がかかる。そのほか、各地の研究機関では、鳥や昆虫、細菌など、マツノマダラカミキリの天敵について実用化を目指す研究が行われているという。

   また、島根県の研究センターでは、マツノザイセンチュウに対して抵抗力をもつ松の開発が進められている。松枯れの山林から生き残った松を採取、そこにセンチュウを注入し、それでも枯れなかった松から新たな苗を育てる試みだ。今年の春から植林を始めたが、防砂林などになるには20年以上の歳月がかかるという。

   スタジオゲストの小出五郎(科学ジャーナリスト)は、今をどうするか、将来をどうするか、2つの視点が大切だとして、「今はいろんな手段を使い分けることが重要。将来的には、抵抗力をもつ松を育成する取り組みが主流になろう」と語る。そして「アメリカでは松枯れがない。長い間に、病原と木に共存関係が出来上がったのではないか。自然には、進化という、人間の知恵、時間を超えたような力がある。それを利用しようということだ」と述べた。

   衰退するのは早く、蘇えるには長い時間が要るのだと改めて感じさせられた。

アレマ

   * NHKクローズアップ現代(2009年7月30日放送)

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