蜷川幸雄に刃が向けられた時 演劇と若者と時代

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「100年インタビュー 蜷川幸雄」(NHKハイビジョン) 2009年9月24日 20時~

   渋谷のシアターコクーンで、昼の12時から夜の10時半まで、3部の合計が9時間一挙上演という長大な芝居『コースト・オブ・ユートピア(ユートピアの岸へ)』を見た。この演出が蜷川幸雄だった。
   阿部寛、勝村政信、石丸幹二、別所哲也、紺野まひる、京野ことみ、麻実れい、佐藤江梨子、水野美紀、栗山千明、瑳川哲朗、銀粉蝶ら錚々たるスター揃いのセリフ劇であるが、ロシアの実在の思想家、アレクサンドル・ゲルツェンとその周辺の貴族及びインテリゲンチャたちの遍歴を描いた大河ドラマでもある。疲れたが堪能した。
   さて、この芝居を見た後で偶然蜷川のインタヴューを見たのだ。かつて蜷川は若い男に殺されそうになった。アングラ劇から商業演劇に移った後、ある日映画館に入って上映を待っていると、若い男が話があるとしつこく誘う。仕方なく喫茶店に入った。セリフは正確に記憶していないが、要するに貧しいアングラから商業演劇に移って満足か、幸せか、希望に満ちているかといったニュアンスの質問だったらしい。目の据わったオタク青年だったのだろう。怖い。
   蜷川の中ではどんな演劇であろうと己の芸術の表現だから変わっていないのに、彼がもしウハウハと喜んでいたら許せなかったのだ。その男は答え次第では蜷川を殺そうと思い、テーブルの下でナイフを向けていたのである。これぐらい当時の若者は鋭敏で、演劇人の表現から自分たちの生き方に指針を得ようと彷徨っていたのだ。

(黄蘭)

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