見えざる手VS見える心 欧州はまた分裂するのか?

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<テレビウォッチ> ベルリンの壁が崩壊したのは20年前の1989年11月9日。この日から東欧は民主化が進み、ヨーロッパ各国は経済成長と統合への道を順調に歩むかと思われた。が、昨2008年、状況は一変する。

「金融危機で経済成長に急ブレーキがかかり、西側も東側も相互に繁栄するかに見えた構図の脆弱さ、統合への道のりがまだまだ遠い現実を浮き彫りにした」(国谷裕子キャスター)。

ハンガリーの苦境

   番組のタイトルは「壁崩壊20年 欧州の光と影」だが、取材班が力点を置くのは「影」の方だ。まず「市場経済化の優等生といわれた」(国谷)ハンガリーの苦境から――失業率が9.9%と悪化する中、国は厳しい財政を立て直すため、消費税を25%に上げ、社会保障費を減額する。

   バイナイ首相は「経済成長はしたが、目標には遠く及ばない。国民の多くは失望している。20年間、国政を担ってきた政治家の罪は重い」と演説する。既存政党の排除を主張する右翼政党の支持率は10%を超え、低迷する政権与党に迫る勢いだという。歴史学者は「外国企業は残念なことにハンガリーの経済発展に関心がない。だからハンガリー経済は植民地に近い状況にある。経済も政治もよくない」と話す。

   国谷は、ハンガリーの現状に同情的だが、スタジオゲストのテオ・ゾンマー(ディ・ツァイト紙論説主幹)は、「金融危機の前、ハンガリーは25年前より、はるかにいい状況だった。ポーランドなどは金融危機の影響をさほど受けていない。ブダペストはやり方が悪かった」と、にべもない。そんなに深刻に見なくてもいいよ、と言いたげだ。

「壁崩壊、誰もよく思っていない」

   番組は、旧東独の現状も悲観的に伝える。ホイエルスウェルダという町に住む51才の男性は、勤めていた石炭加工工場が西側との競争に敗れて解雇される。職を求めて旧西独へ行くが、そこで2級市民扱いされ、上司から「怠け者の東ドイツ人」と罵倒され、4年後、傷ついて東に戻った。

   彼はこう述懐する。「統一したころ、西側からの約束があった。東ドイツは『花咲く風景に』繁栄すると約束されていた」。それとは程遠いというのだ。また、年配の女性は「壁が崩壊したことを、今は誰もよく思っていないわ」と、こぼす。

   これらについても論説主幹は「東独の1人当たりの所得は2倍に、西の43%だった労働生産性は76%に増えた」とし、「東独の多くの人が壁に戻ってほしいと考えているかは疑わしい。95%は壁を再び望まないだろう。危機は永遠に続くわけではない。景気が戻れば今の状況に満足するだろう」と反論した。

   最後に国谷から、資本主義の見えざる手では心の傷を癒せないのでは、と問われたテオは「資本主義に必要なのはアダム・スミスの見えざる手だけではない。それは見える心だ。弱い人たちの世話をしていかなければならない。ヨーロッパはそれができる」と自信ありげに結んだ。

   キャスターにこれだけ異を唱えるゲストも珍しく、そのことが興味深かった。 

アレマ

   *NHKクローズアップ現代(2009年11月5日放送)

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