武士の魂でハリウッドへ 迫真VFX映像のテクと根性

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<テレビウォッチ>高層ビルが建ち並び、ヤシの木が所々に植えられた、いつもと変わらぬロサンゼルス大通り。ところが突如、道路が盛り上がり、裂けた大地に車やヤシの木、高層ビルが飲み込まれていく。

   話題のハリウッド映画『2012』が今週末(2009年11月21日)、公開される。マヤ文明が予言したという『2012年地球滅亡』の危機を描いた大作だ。

アカデミー賞受賞

   総製作費260億円。1500カットに、起きるはずのない『現実』を実際に起きているようにリアルに描くVFX(ヴィジュアル・エフェクト=視覚効果)が駆使されている。

   番組は、そのVFX技術の制作責任者に抜擢された若い日本人男性を取り上げた。

   番組で紹介された男性の足跡は、就職難、派遣切り等々で悶々としている若い人も背筋がピンと伸び、ヤル気が出てきそうな内容といっていい。

   映像クリエーター、坂口亮(31)。昨年行われた80回アカデミー賞授賞式でVFX科学技術賞を受賞し、この分野で世界の頂点に立った。

   坂口がVFXに出会ったのは高校時代という。VFXを使った映画を見て、リアルな映像に感動。「大学卒業後はあんな仕事をやりたい」と夢が膨らんだ。

   もっともこの分野に必要な数学や物理が苦手で、文系の大学に進んだ。が、夢を捨てきれず3年生の時、思い切って休学し映像の専門学校に。

   そこで渡米のチャンスを掴み、ロスへ。『2012』のVFX映像を担当することになる15社のうちの1社で、業界トップクラスの『デジタルドメイン社』に入社した。

   今から9年前のことだが、当初は雑用ばかり。だが、坂口はある目標を持っていた。

   通勤途中に立ち寄るロスの海岸で海を見るのが日課になっていた。打ち寄せる波を見ながら「水の映像をつくりたい」が目標だった。

   当時ハリウッドは、VFXで水を描くのがもっとも難しい技術のひとつとされていた。

   だが、水の動きを描くには流体力学の数式を理解する必要がある。そこで日本から数学、物理の中学・高校教科書を取り寄せ、基礎からのやり直し。

   休日返上の3年間を支えた精神力は高校時代に打ち込んだ柔道だったという。本人は「武士の魂ですかね~」と笑う。

   こうして入社5年目、大きなチャンスが訪れた。大作『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』の海のVFX映像の制作スタッフに抜擢されたのだ。

   指示されたのは「海の果てに存在するという巨大な滝を作ること」。

このこだわり「やっぱり日本人」

   3か月間、様々な角度から撮ったナイヤガラ瀑布の映像を見続けた結果、ナイヤガラ瀑布を小さな滝に分割し、その組み合わせで巨大で見事な滝を作った。それが評価され、アカデミー科学技術賞の受賞となった。

   そして今回の『2012』。VFX制作を指揮するテクニカル・ディレクターになった坂口に監督が指示したのは「世界中を破壊せよ」だった。

「あり得ないスケールの破壊。やばいと思いつつ、よっしゃ、これは面白い」

   で、もっとも力を注いだのは、地震で地元ロスが崩壊するシーンという。わずか2秒間のカットだが、25人が半年がかりで、実際に現地を調べ道路のゆがみや鉄骨の曲がり具合、ヤシの葉が1枚1枚落ちるところまで表現した。

   現実に起こっていない虚構の世界を起こっているように描く。薄皮1枚のところまで近づけるにはきめ細かさが必要なのだろう。

   スタジオに生主演した映画評論家、おすぎが絶賛した。

「今回は本当に画期的ですね。新しい仕事に日本人が入って行き、やったのもすごい。細かいところまでこだわるのもやっぱり日本人。欧米人はあそこまでこだわらない。そのこだわりを追及した結果、リアル以上に感じることができる」

   そしてもうひとつ。キャスターの国谷裕子は注目したのは「ハリウッドは人の能力を見てくれる、育ててくれる。日本でチャンスがないなら外へ出てやってみようという気になりますね~」と。

   ただ、そのチャンスを掴むのも、まずは先立つものがあってのこと。そこが、どうしても立ちふさがる高い壁に……

モンブラン

* NHKクローズアップ現代(2009年11月18日放送)

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