2024年 4月 20日 (土)

「首相のスキャンダル」 今の週刊誌は書くかビビるか(上)

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   伝説のタウン誌「谷中根津千駄木」の編集者で作家の森まゆみさんから葉書をいただいた。拙著「週刊誌は死なず」(朝日新書)を読んだ感想を書いていただいたなかに、週刊誌がやってきたスキャンダルの章で、告白した女性たちの言葉にショックを受けたとあった。 権力者たちが女性に対してこれほど酷いことをしてきたのかと腹が立った。次回はこうしたことをまとめて「セックス・スキャンダル」という本を出してくれとある。

   そういえば、田中角栄総理(当時)の愛人を明るみに出したのは「文藝春秋」。宇野宗佑総理(当時)の元愛人の手記を載せたのは「サンデー毎日」。中川秀直官房長官(当時)の愛人の手記は「週刊ポスト」と「FOCUS」。山崎拓幹事長(当時)とのあけすけな閨での秘事を愛人が暴露したのは「週刊文春」。今年に入って鴻池祥肇自民党官房副長官(当時)の熱海不倫をすっぱ抜いたのは「週刊新潮」だった。

賠償額の高額化

   しかし、2002年の山崎拓氏との赤裸々なセックス告白記事以来、これと同様の「告白手記」が週刊誌に載っていないのは、ネタがないからなのだろうか。

   そうではあるまい。まったく仮定の話だが、某週刊誌が鳩山由紀夫首相の北海道妻といわれた元愛人の手記を首尾よくとったとしよう。内容も赤裸々で話題になることは間違いない。発売後に名誉毀損で訴えられても、裁判で自分の恥ずかしいことを公開されたくはないから、途中で訴えを取り下げるはずだ。私が編集長時代なら、そう考えてゴーサインを出しただろう。しかし、今ならどうなるか。

   鳩山首相側は、スキャンダルが出るという情報を知ったらすぐに、プライバシー侵害だとして、出版差し止め請求を地裁に出すはずだ。04年に、プライバシー侵害したとして田中真紀子の長女側が差し止めの仮処分請求を出し、あっという間に地裁はこれを認めてしまう「事件」があったが、この何十倍ものスキャンダルだから、認められる可能性は100%に近いはずだ。

   刷り終え、発送間近の何十万部の週刊誌が留め置かれ、出版社側には億以上の赤字が出るはずだ。

   そうでなくとも、週刊誌がこうした取材をしていることを知った時点で「個人情報保護法」違反で訴えることもできる。もちろん、記事が出てからでも、名誉毀損、プライバシー侵害で訴えれば、朝青龍たちが「週刊現代」を訴えた裁判で4000万円以上を支払えという判決が出たくらいだから、賠償額は少なく見積もっても1億円は下らないのではないか。

「本人承諾なし」の写真ダメ?

   そこまで考えて、それでもやり抜こうという覚悟のある編集長がいるとは思えない。日本一危険な編集者といわれた私でも、二の足を踏むだろう。

   その上、11月18日に東京高裁でこういう判決がでた。貴乃花親方夫妻が兄・若乃花との遺産相続争いの渦中にあったとき、フライデーが報じた内容の一部と、路上や新幹線の中で撮られた写真が名誉毀損、プライバシー侵害に当たると、貴乃花側が訴えていた裁判で、名誉毀損に当たるから賠償金を払えという判決とともに、写真を撮ったことを、「本人の承諾を得ず、秘密裏に撮影したもので、社会生活上、受忍すべき限度を超えたものであって、人格的利益を侵害するもの」と断じたのである。

   これからは、芸能人が人目を忍んで逢い引き(古いね!)する姿を、本人の承諾をえないで隠し撮りすることはまかりならんということになりはしないか。これはフライデーへの死刑宣告と同時に、メディア全体を萎縮させると、田原総一朗氏は警告する。

「これを拡大解釈しすぎるとメディアの取材はほとんど許されなくなり、ひいては社会が崩壊する危険があることを認識するべきです。その意味で、今回の判決は行きすぎだと思います」

   司法によって手足を縛られ、恫喝されている週刊誌に未来はあるのか。暗く重たい問題を抱えながら、それでも週刊誌は、今週も精一杯、小沢・鳩山政権を責め立てている。<(下)に続く

元木昌彦プロフィール
1945年11月24日生まれ/1990年11月「FRIDAY」編集長/1992年11月から97年まで「週刊現代」編集長/1999年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長/2007年2月から2008年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(現オーマイライフ)で、編集長、代表取締役社長を務める
現在(2008年10月)、「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催。編集プロデュース。

【著書】
編著「編集者の学校」(講談社)/「週刊誌編集長」(展望社)/「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社)/「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス)/「競馬必勝放浪記」(祥伝社新書)ほか

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