2024年 4月 26日 (金)

【取材秘話】王さんから聞いた甲子園におけるサインの極意

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取材秘話・フラッシュバック(4)


    もっとも緊張するサインはスクイズである。勝敗に大きく影響するからで、警戒する中で監督が走者と打者にシグナルを出す。「相手に見破られていないか」「選手が見落としていないか」…。攻める者、守る者、グラウンドにいるすべての者が全神経を注ぐ、インサイドベースボールの醍醐味である。

    戦いの中で重要な役割を果たすサイン。どの学校も独自のシグナルを持っている。いわば“チームの公用語”。このサインによって試合が進められ、攻撃と守備の両面でしのぎを削り、勝敗の行方を左右していく。広い甲子園球場は、ベンチからフェアグラウンドまで大きな距離がある。打者まで遠いということは、正確に伝わるか不安をもたらすことになる。

    「甲子園でのサインをどう考えますか」。巨人監督時代の王貞治さんにそう尋ねたことがある。王さんは早実時代、選抜大会で優勝するなど甲子園に何度も出場しており、サインの大切さを熟知している。こんな答えが返ってきた。「自軍には分かりやすく、相手には分かりづらい。これが甲子園戦法だね」。サインの極意である。

    サインには一瞬に出すフラッシュ、動作を組み立てるブロック、キーを使うコンビネーションなどがある。このほか、声と言葉を使ったり、バッテリー間で球種の暗号を利用したり、ありとあらゆる手段が尽くされる。学校の中には特定選手だけのサインがあったり、イニングによってサインを変えるなどの工夫も。ビデオなどで研究されているから、必要以上に用心深くなるのは仕方ないのだろう。

    大リーグでは日本と大きく異なることがある。多国籍、言葉が通じづらいなどが絡むので、サインはヒットエンドランしかないという球団もかつてはあった。複雑なことをするより何もない方がミスが少なく、トラブルの元にならないというわけである。

    日本のプロ野球ではサイン見落としで罰金を科せられる。いかにサインが“最高機密”かの表れだ。

菅谷 齊


菅谷 齊(すがや・ひとし)プロフィール
1943年、東京生まれ。法政大学卒。法政二高硬式野球部時代に甲子園で夏春連覇(1960,61年)を経験。共同通信社ではプロ、アマ野球、大リーグを主に担当。84年のロサンゼルス五輪特派員。プロ野球記者クラブ、野球殿堂入り選考の代表幹事を務める。野球技術書など著書多数。現在、日本記者クラブ会員(会報委員会委員)。

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