佳作である。終戦時、10歳だった倉本聰が、日頃から何でも金まみれの価値観で計られるようになった今の日本に憤怒の気持ちがあり、それが迸り出てきたようなドラマである。終戦記念日の深夜、時刻表にない列車が東京駅に着く。乗っていたのは南の海に沈んだ第二次大戦中の英霊たちである。彼らは僅かな時間だけ懐かしい人たちを訪ねて歩く。そのエピソードが非常によく出来ている。
大宮上等兵(ピートたけし)は貧しい田舎出身で踊り子の妹と2人で生きてきた。今、年老いた妹は植物人間で生かされていて、苦労して育てた息子・健一(石坂浩二)は大学教授で内閣ブレーンにまで出世したのに、母親は施設に預けっぱなしでほとんど捨てている。悪いが、小泉内閣の竹中平蔵を連想してしまった。大宮は錆びた短剣でこの不肖の甥の胸を刺し黄泉の国へも帰れなくなる。
他にも、音楽学生だった木谷少尉(小栗旬)は、かつての恋人と再会するが、彼女は盲目になり、心の中で木谷に逢っている。知的な学徒兵の挿話として説得力がある。最後に作者が言わせるのは「どこから日本は間違ってしまったんだろう」ということだ。山口瞳が彼のコラムの中で、「昔より今の日本の方がずっとまし」と書いたのを筆者は読んでいるが、一方の倉本は現代日本を慨嘆する。日本人の変質に対する見方は様々だが、泉下の英霊たちが、俺たちの戦いは何だったのだ、空しいと嘆くのは確かであろう。
(黄蘭)
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