本当の「悪人」はだれなのか…深津絵里「最優秀女優賞」の新境地

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(C)2010「悪人」製作委員会
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悪人> ある冬の夜、福岡の保険会社に勤めるOL・石橋佳乃(満島ひかり)が殺された。警察は当日一緒にいた金持ちの大学生・増尾圭吾(岡田将生)を疑うが、捜査を進めるうちに、長崎の土木作業員・清水祐一(妻夫木聡)が真犯人であると断定。佳乃と祐一は出会い系サイトで知り合い、関係を持っていた。

   警察が行方を追うなか、祐一は同じく出会い系サイトで出会った佐賀の紳士服量販店で働く馬込光代(深津絵里)を車に乗せて逃亡。罪の意識から一度は警察に出頭しようとする祐一だったが、それを引きとめたのは光代だった。

出会い系サイトで売春するOL

   2007年に第61回毎日出版文化賞と第34回大佛次郎賞をダブル受賞した芥川賞作家・吉田修一の小説を映画化。10人の映画監督が映画化を熱望し、20社以上にわたる映画化権争奪戦となり、本作は監督を『フラガール』の李相日が、脚本を李と吉田が共同で担当した。音楽には巨匠・久石譲が参加し、主題歌を作曲。日本公開前にヒロイン役の深津絵里がこの映画で第34回モントリオール世界映画祭の最優秀女優賞を受賞したことでも話題を集めている。

   物語は祐一に殺されたOL石橋佳乃の生前の場面から始まる。佳乃は社会的には普通のOL、親から見ればまだまだ甘ったれのかわいい娘。だが、裏では出会い系サイトで売春行為をしていた。娘を失って初めて実態を知った佳乃の父(柄本明)、孫が殺人犯だとは信じきれない祐一の祖母(樹木希林)、被害者家族と加害者家族では立場は大きく異なるのに、いずれも社会の注目を浴びながら、なす術もなく打ちひしがれる様子は共通して痛々しい。

   スクリーンは、そんな両家族の場面から、逃げる祐一と光代、そして罪を免れ被害者をあざ笑う大学生へとテンポよく切り替わり、それぞれの「今」を映し出す。本当に悪いのは加害者だけなのか、「悪人」とは誰なのか。場面が切り替わるごとに、そう簡単には答えの出ない難問を突きつけられているようで、観ている方も思わず眉間にしわが寄る。気分が重くなることは覚悟しておいた方がいいだろう。

不快指数満点の演技

   さらに、観客を引き込む場面展開の上手さもさることながら、俳優陣の演技も見応えがあった。とくに世界的な映画祭で受賞した深津、初の悪人役という妻夫木は、この作品で新境地を切り開いたように感じられた。祐一も光代も内向的な性格のため、台詞は決して多くない。そのぶん両者とも身体での感情表現がすばらしかった。愛が刹那的なものから永遠的なものへと変化していくさま、やっとつかんだ幸せをかみしめた瞬間とそれを手放さなくてはならない瞬間の心理が、眼差しの強さや顔のシワ、相手を抱き寄せる力強さなどから痛いほど伝わってくる。満島(佳乃)と岡田(増尾)ら若手俳優も、日ごろの爽やかなイメージからは想像できない不快指数満点の演技。期待していい。

   本当の「悪人」とは誰なのか。最後まで観ても答えは用意されていない。傍若無人な増尾の言動に疑問を抱く同級生、打ちひしがれる祐一の祖母に「しっかりしなさい」と声をかけるバス運転手などの存在にかすかな救いがある。美しくせつないラストもいい。

バード

オススメ度:☆☆☆☆

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