妻に先立たれた夫…悲嘆、喪失感のなかでの立ち直り

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   俳優の仲代達矢(77)が語る。「呆然と立ちつくすという感じだった。後追いを考えた時期もあった。それで仕事に没頭した。しかし家に帰ると誰もいない。なんと男はだらしないものかと……」

   14年前、妻の恭子さんを亡くしたときのことである。ロストシングルというのだそうだ。妻を亡くして、深い喪失感から 不眠に陥ったり、日常生活に支障をきたす男たちのことである。

生きていてもしょうがないと酒びたり

   男たちはそんなにももろいのか。伴侶の死後の悩みで、「話相手がいない」は女40%に対して男は100%。「一緒に行動する人がいない」は、女20%に対して男は80%という数字がある。男の方が立ち直りに時間がかかり、死亡率も高まるという。

   69歳の男性は昨年5月妻を亡くして、いまも毎日写真に語りかけている。 孫たちの写真も並んでいる。娘2人が嫁ぎ、退職後2人だけの生活に入った矢先だった。夜眠れず、睡眠導入剤がかかせない。それでも眠れない。

   それで日記を書き始めた。タイトルに「僕は生きるぞ生きるんだ 君の面影胸に秘め」とある。「自分を奮い立たせないと」という。

   手記の出版は多い。仲代達矢、川本三郎、倉嶋厚、しばらく前には城山三郎……。立ち直りを支援する動きもある。大阪の葬儀社が始めた「悩みを打ち明ける」集まりには600人が会員になっている。ほとんどが60歳以上。生活の悩み、妻への後悔の念を口にする男たち。

   日本対がん協会会長の垣添忠生さんは2年前、妻をがんで亡くした。「最初の3か月がひどかった。40年も一緒だったから。手足をもがれたような。生きていてもしょうがないと、酒びたり。精神も肉体もボロボロになって」と言う。

   対がん協会の仕事があるので日中は忘れられるが、夜がつらかった。これではいけないと、トレーニングを始め、体調が良くなると精神も回復した。いまは山にも登るようになった。「仕事柄、たくさんの人を見送ってきたけれど、こんなにつらいものかと初めて感じた」と言う。この体験を手記にしている。

広がる「グリーフケア」

   「グリーフ(悲嘆)ケア」というのだそうだ。群馬・高崎の診療所はもともと在宅医療なので、患者が亡くなったあと、残された家族の心のケアもしている。医師や看護師がときどき訪問する。

   25年連れ添った妻を亡くした男性(55) は、「誰にも話せないが、医師や看護師には話せる」と語る。垣添さんも「死ぬまで見てもらえるから、それがいちばん自然だ。診療報酬も考えていいのではないか」とまで言う。

   東京・足立区の社会福祉協議会は、公的サービスとして日常生活のケアを24時間態勢でやっている。一定の利用料を払うと、協議会が「見守り」「金銭の管理」から「入院時の保証人」までをやってくれる。妻を亡くした男性の多くは、金銭管理から役所通いまで妻に任せきりだった。「助かってます」と利用者の男性は言っていた。

   垣添さんは「本を書くことで癒された」という。体験者として「新たな人生に結びつけるきっかけは必ずある」と助言している。

   しかしひるがえって、こうした伴侶に恵まれない、あるいは戸籍だけ残して消えた人たちがいる。ほんの数十年前には、もっと理不尽に生死を引き裂かれた人たちがいた。だれも「ケア」なんていわなかった。

ヤンヤン

NHKクローズアップ現代(2010年10月4日放送「男 ひとり残されて」)

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