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「個人がメディアを持った」尖閣ビデオ流出で評論家・立花隆

   尖閣諸島沖の中国船衝突事件の映像が流出した問題は、多くの課題を投げかけた。ネット時代の情報管理、機密情報と知る権利、守るべき秘密とは何か、外交の役割は、危機管理と責任…。

   ことが明らかになってみると、問題点は案外はっきりしている。中国船は巡視艇にぶつけるなどきわめて悪質だった。船長は「公務執行妨害」などで逮捕された。海上保安部は報道用などにDVDを用意した。ここまでは通常通り。現場もみな映像は公開されるものと思っていた。

   だが、政府はこれを「捜査の証拠だ」と非公開にした。これがつまずきの始まりだ。船長の拘留期限が延長されると、中国が動き出した。人間の交流をとめ、反日デモが起き、日本人3人を拘留、レアアースも止まった。温家宝首相は国連 で「日本が独断専行するなら、中国はさらなる行動をとる」と宣言した。

   体当たり映像が非公開とされたため、何が起こったのかを日中両国民とも知らないままに感情だけが冷え込んでいった。政府が「超法規」で船長を釈放したとき、一線の海保は「やってられない」という空気になった。「命を張ってるのに」と現役保安官は言う。

   映像を流出させた海上保安官は、警視庁などの聴取に「国民に知ってもらいたかった。本来隠すべきでない」と供述しているそうだ。海保関係者は「彼の気持ちはわかるが、流出を認めてしまうと組織がもたない」と話す。

もう政府が隠し事なんてできない

   元外務省審議官の田中均は「組織である以上、流出はあってはならない。が、同時にこれを非公開にすべきかどうか。外交的にはいまある関係が壊れるときには隠す。だが、説明がいる」という。さらに「政府はその態勢が整っていなかった。判断を間違えたら責任を伴うものだ」と批判的だ。

   いま世界では、米軍の秘密情報などを流すウイキリークスというメディアが注目されている。主として内部告発情報だ。アイスランドでは、2年前の金融危機をまねいた原因に関する情報がこれで伝えられて、国民の怒りが爆発した。いま議会で情報公開の法整備中だが、公共の利益のためなら、公務員は守秘義務を負わないという内容になる見通しだという。

   評論家の立花隆はこう指摘する。

「まず、個人がメディアを持った。彼がやったのはYouTubeにアップしただけだが、わずか3時間の拡散過程にはものすごい数の人が参加している。この大きさを知らないといけない。いつも起こることではないが、あの時は情報飢餓状態にあった。みないいものを見たと思っている」

   公開、非公開の判断について立花は、「公共の利益でしょうね。これが高くなると、違法性がなくなるということはある。この事件も今後これが議論になる」とみる。

「では、何をもって公共というのか」

   キャスターの国谷裕子が問うた。

   田中は「客観的な事実は公開にしてしかるべきだが、全てだとは思わない。最終的には、選挙で選ばれた人が判断すべきでしょう」と、あまりにも常識的で肩すかし。田中だって、現役時代は全部説明なんかしてなかったではないか。いまの政権は役人の言うことに耳を傾けないそうだから、これは田中一流の皮肉か。

   海上保安官は逮捕されないことになった。肝心の中国側船長が釈放されているのだから、守秘義務違反というのも変な話である。番組のなかで、ウイキリークスのスタッフがうそぶいていた。

「この時代に政府が隠し事なんてできない」

ヤンヤン

NHKクローズアップ現代(2010年11月15日放送「『尖閣映像』流出の衝撃」)