2024年 4月 20日 (土)

流出保安官「正義」か「危険な兆候」か―週刊誌真っ二つ!おおいに結構

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   尖閣沖衝突ビデオを流失させた海上保安部の保安官(43)について、警視庁と検察当局は15日(2010年11月)、国家公務員法(守秘義務)違反容疑では逮捕しないことを決めた。

   逮捕を見送った理由としては、広範囲の海保職員が4~5日間にわたってこのビデオを閲覧できたことが判明し、「国家機密とは言えない」のではないかという慎重論があること。もう1点は、保安官の行為に対して、共同通信の世論調査(12~13日)によると、88・4%が映像を「公開すべきだった」とするなど好意的な声が多く、漏えいを問題視する声は少ないことが考えられる。

   件の保安官はマスコミに対して、次のようなコメントを発表した。

「(中略)今回私が事件を起こしたのは、政治的主張や私利私欲に基づくものではありません。ただ広く一人でも多くの人に遠く離れた日本の海で起こっている出来事を見てもらい、一人ひとりが考え判断し、そして行動して欲しかっただけです。
私は、今回の行動が正しいと信じておりますが、反面、公務員のルールとしては許されないことであったと反省もしております。私の心情をご理解いただければ幸いです」

擁護派―「現代」「ポスト」

   この保安官の評価をめぐって、週刊誌も大きく割れた。彼の逮捕見送り決定になる前の発売だが、「週刊現代」は保安官の実名を真っ先に公表、「正義はわれにありと」とタイトルをうち、某海保職員にこう言わせている。

「第一線で体を張り、国防に当たっている者たちの気持ちを、政権中枢はまったく理解していないという怒りが、今回の行動の最大の動機なんです」

   結びでも「彼の行動は正義感に貫かれている」と全面支援している。

   「週刊ポスト」も保安官の行為擁護派のようだ。今回流失したビデオは、海保職員が撮影した4本のうちの2本であり、残りのビデオには中国人船長らを逮捕するシーンが収められているというのだ。そこには「中国人船長を逮捕する際に、海保職員が海に落下し、命を落とす危険にさらされた」シーンが収められているという情報があると書いている。

   また、ジャーナリストの惠谷治氏にこう言わせている。

「菅政権の対応の弱腰ぶり、だらしなさに対して、気持ちを抑えることができなかったのだろう。その意味で、平成の『2・26事件』といえなくもない」

   さらにこうした『世直しの機運』が高まっているのは自衛隊も同様で、政治家が任務に理解を示さないために、不満が鬱積していると書く。

警鐘派―「文春」「新潮」「毎日」

   こうした英雄視する風潮に警鐘を鳴らすのは「サンデー毎日」。「許されざる『義挙』崩れ始めた文民統制」で、「生の映像情報は視聴者の感情に直接訴えるため、反応も感情的になりやすい。(中略)さらに、今回のような手法は権力による保秘強化につながりかねず、自由を縮減する恐れがあります。(中略)武器を持った公務員には、とりわけ厳しい自律が必要。そうした自覚を欠いていたのではないか」(大石泰彦青山学院大教授)と、保安官の行為を批判する。

   作家の佐藤優氏も、「保安官は辞職した後で、己の信念を主張するべきだった。武装した権力に一般人が抵抗できない以上、海保の『義挙』が、自衛隊や警察など同じ武装組織に広まることが最大の懸念です。武器を持った公務員に世直しを期待する国民はいないはず。政治の統制に従うという原則を徹底させなければならない」と、この風潮は、犬養毅首相を青年将校が暗殺した5・15事件で、市民らの助命嘆願で青年将校たちを軽い処分で済ませたために、2・26事件につながっていったときと似ているとしている。

   逮捕見送りが決まってから発売された「週刊新潮」「週刊文春」はどうか。文春は「『流失保安官』(実名)『覚悟なき英雄』の正体 あえて言う!この男は『正義』なのか」と、実名を出し、保阪正康氏と佐藤優氏にこう批判させている。

「保安官も海保も、警察・検察も、政府も菅首相も、『自分の責任』に無自覚すぎる。そして、海保という小さな組織に開いた穴は、この国の政府の大きなほころびに繋がる危険を孕んでいるのです」(保阪氏)

   佐藤氏はマスコミの責任に言及して、「悪いのはマスコミも同じです。国が隠す情報をリークした者を批判すると、自らの生きていく道を閉ざすことにつながるから、新聞やテレビの論調は無意識に擁護へ傾く。それがまた国民の判断を誤らせる。今回の行為は、明白な服務規律違反です」と言い切る。

   新潮は、実名はもちろんだが、グラビアで保安官の顔を公開している。なかなか凛々しい顔だ。タイトルは「見る前に跳んだ『海上保安官』の素顔」とややおとなしいが、身内の海保OBにこう言わせている。

「中国の無法な行いを世界中の人が見ることができたのは、大きな意味があった。でも、職務上知り得た情報を勝手に外部に漏らした行為の是非は、それと全く別のところで議論しなくてはならない。やはり、(実名)さんには何らかの処分が下されてしかるべきです。そうでなければ組織の規律は保てない」

   国内の景気対策はもちろんのこと、対中国・ロシア外交でも弱腰で失点を重ねる菅・仙谷内閣に、国民の不満は爆発寸前である。だからといって、一公務員の政権を揺るがす『クーデター』のような行為を許していいのか。重要なテーマだけに、新聞テレビと違って、週刊誌は「主張」をぶつけ合い、議論を深めていってもらいたいものだ。

元木昌彦プロフィール
1945年11月24日生まれ/1990年11月「FRIDAY」編集長/1992年11月から97年まで「週刊現代」編集長/1999年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長/2007年2月から2008年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(現オーマイライフ)で、編集長、代表取締役社長を務める
現在(2008年10月)、「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催。編集プロデュース。

【著書】
編著「編集者の学校」(講談社)/「週刊誌編集長」(展望社)/「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社)/「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス)/「競馬必勝放浪記」(祥伝社新書)ほか

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