田村正和ならでは「陰鬱な目」に漂う「デラシネの哀愁」

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「松本清張スペシャル 球形の荒野 後編」(フジテレビ)2010年11月27日21時~

   後編の白眉は野上久美子(比嘉愛未)が、生きているのではないかと確信するに至った父・顕一郎(田村正和)と会って名乗り合う海辺のシーンである。比嘉は整い過ぎた顔立ち故に、これまで民放ドラマでは主役よりも2番手のポストで使われることが多かった。この作品では、昭和30年代の良家の子女という役柄なので、硬い表情が保守的な育てられ方をした娘としてプラスに作用していた。
   役者では田村正和のスターぶりが際立つ。田村にはあの歩き方も発声も、キザの極みとして「クサい」と嫌う声も確かにある。だが、筆者にはクサいとは取れなかった。トレンチコートを着て、少し猫背にソフト帽を被り、陰鬱な目をしてスタスタと歩く現在の姿と、子煩悩でいつも家族に思いを馳せていた20年前の姿と、2つの姿から滲み出る落差こそは、戦後の約20年間を、デラシネとして流浪した男の奈落のような孤独を表現しえた田村ならではの表現力の賜だったと思う。得も言われぬ哀愁があり見る者の共感をよぶ。
   原作では芳名帳の文字を見つける久美子の従姉・芦村節子(木村多江)が主人公である。ドラマでは普通通り事件発生に変更し、警察側から書いている。野上は、その生死と共に、連続した事件の周辺を動く疑わしい人物として描かれる。終わり近く戦中派の鈴木警部補に野上をねぎらわせる場面があり、ここに、国のために亡霊となった男への哀惜という脚本家(君塚良一)の心情がよく出ている。

(黄蘭)

採点:2
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