阪神・淡路大震災―負傷4万人取り残された16年

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   16年目を迎えた阪神・淡路大震災。10万棟を超える建物が全壊し7036棟が全焼、6434人の命が奪われたなかで、社会や行政から見過ごされてきた人たちがいる。震災で負傷し障害を負った4万人を超える人たちで、家族との死別に加えて、家や仕事を失った喪失感、自らのケガの治療に苦しんできた。これら負傷した被災者たちはこの16年間、行政による包括的な支援もなく世間からも注目されることはなかった。

   その実態にようやく光が当てられ、フォローすべきだった行政の手落ちも明らかになりつつある。この問題を追い続けている関西学院大学の池埜聡教授が出演し、対応策と学ぶべき教訓を探った。

いまだにケガの後遺症や精神障害

   番組によると、負傷し障害を負った人は4万3800人。うち脊椎損傷などで生死をさ迷ったりした重症者は1万600人以上。軽傷とされても、いまだにケガの後遺症や精神障害で苦しむ人も少なくないという。

   兵庫県は今年度、負傷し障害を負った328人を対象に実態調査を行った。その結果、80%の人たちの自宅が全壊・全焼、29%の人たちが仕事を失いながらケガの治療に追われていた実態がようやく明らかになった。

   傷ついた体と心に重い負担を負いながら生活再建に苦悩する人たち。番組は両親と夫を失い、自らもケガの後遺症が残る52歳の主婦を取り上げた。

   主婦が震災にあったのは神戸市内の自宅。夫婦子供2人が寝ていた1階は一瞬にして押しつぶされ、倒れたタンスに挟まれ身動きできない暗闇の中で家族に声をかけた。返ってきた夫の声は弱々しく、「子供だけは頼むぞ。誰かいい人がいたら一緒になれよ」だった。幸い子供は無事だったが、夫は搬送された病院で十分な治療も受けられず翌日、息を引き取った。主婦も足に重傷を負ったが、治療できる病院に転送されたのは3日後。それも被災地から70キロ離れた町の病院で、被災地の情報は届かず、生活再建から取り残される結果になった。

   子供たちは大坂の親戚に預かってもらっていたが、母親と離ればなれの暮らしに耐えられない状態になっていた。主婦は医師の制止も聞かず退院を決意する。子供の学校を考え神戸市内の仮設住宅への入居を申し入れたが、すでに満杯で入れず、大阪市の市営住宅で暮らすことにした。

   しかし、子供は転校先に馴染めず、主婦は働きたくても体が思うようにいかない。蓄えも底を突く状態で、生きる希望を失い市営住宅12階の自宅から飛び降りる寸前に、登校拒否で自宅にいた子供に止められたという。

周囲からは「生きているだけでもまし」

   この主婦は一例に過ぎない。県の実態調査でも、負傷し障害を負った人たちの65%が別の病院へ転送され、うち60%が行政による相談窓口の存在を知らなかったという。池埜教授は負傷し障害を追っている被災者について次のように語った。

「2つの側面で今も苦しんでおられる。1つは折り重なる喪失体験。家族との死別、住居の喪失、入院、子供の転校と喪失が一挙にやってきて、生きていることが辛さの要因だと思うようになっている。
   もう1つは自分たちが忘れ去られた存在だったということ。遠方の病院に転送されて長い間入院し、戻ってみると被災地は復興・再建に向け前進。生きているだけでもましだと言われ、喪失感の辛さや痛みの声を上げることができなかった。また、周りも聞こうとはしなかった」

   キャスターの国谷裕子は「なぜそうした痛み、辛さに気づかないで見落としてしまったのか。どう思いますか」と聞く。池埜教授はこう話す。

「ひと言でいえば、社会や行政の想像のいたらなさだと思う。これからのことを考えると、行政や医療機関が負傷者と直接つながりを持つことが大事。
   たとえば、いまは負傷者の特別のカルテ、台帳ができないか議論されています。そういう台帳があれば、医療や行政の情報を共有できるし、負傷者がどういう暮らしをしているかもわかる。今からでも遅くないと思う」

   遅まきながら、行政を中心にした想像力欠如への反省、情報共有の必要性を16年目の教訓として学び始めたといえる。

*NHKクローズアップ現代(2011年1月19日放送「届かぬ支援 震災負傷者4万人」)

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