2024年 4月 20日 (土)

食い物にされた「総合支援資金」偽の名前・住所で回収不能続発

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   リーマンショックのあとに新設された失業者向けの貸し付け制度で、回収不能や闇社会の食い物になる事態が頻発、わずか2年で待ったなしの見直しを迫られている。

   派遣切りなどによる失職やホームレスへの転落は、従来のセーフティーネット(失業保険と生活保護)ではカバーでしきれないため、第2のセーフティーネットとして総額1兆円が投じられた。家賃補助や生活支援などさまざまだが、昨年8月(2010年)までに28万人が利用している。なかでも金額枠が大きいのが「総合支援資金」だ。6か月から1年まで最高月20万円が借りられる。保証人があれば無利子、なしでも低金利で、利用は4万4000人にのぼる。その返済がこの1月から始まったのだが、返済開始の通知が宛先不明で大量に戻ってくるなど、自治体によっては7割が回収できない状態。多くが偽の名前や住所で申請されていた可能性が高く、すでに大坂、兵庫、福岡では警察が摘発する事態になっている。

闇社会がホームレス使って申請

   NHKの取材がその一端をつかまえていた。大阪市のホームレスの男性(52)は、ホームレス支援団体を名乗る男から「アルバイトをしないか」と声をかけられ、「総合支援資金」の申請を持ちかけられた。この制度は職についていた人の救済策だから、ホームレスでは資格がない。ところが男は他人の住民票や銀行口座を用意して、申請は通ってしまった。月10万円が振り込まれているはずだが、男が管理していて内容はわからない。そのうち、別口まで持ち出されたので、男性は逃げ出し、いまは生活保護を受けているという。

   取材は自称支援団体の男にまでたどりついていた。男は「何人もアパートに住まわせ、申請させている」と認めた。「総合支援は金額が大きいがチェックがゆるい。どんな制度をつくってもやり方はある」と堂々としたものだ。

   申請総額がいちばん多いのは大阪で、業務は府の社会福祉協議会が行っている。しかし、多いときは月600件にもなる申請を審査しているのはたった7人。定職があった証明が必要だが、給与の源泉徴収票が偽造だったり、会社を訪ねたら空き家だったりで、約1割が却下されている。大量の通知不達からも不正が横行しているのは明らかだ。

貸し付けノウハウないままバラマキ

   鈴木亘・学習院大教授は「払い込み前に通知すれば避けられるはず。協議会には貸し付けのノウハウがなく、態勢が整わないままスタートしてしまった」という。

   制度の実効の面でも疑問が出ている。建設業で働いていた男性(25)は、失職後、毎日ハローワークへ通ったが職は見つからず、半年後に「総合支援資金」に頼る。毎月15万円が入るようになった。男性は「就職活動に身が入らなくなった」という。7か月後にアルバイトをみつけたが、借金は90万円になっていた。「返せる範囲で返すしかない」というが、彼はいま生活保護を受けている。むろん返済はできない。

   大阪府の協議会では6人の税務署OBが貸付先の調査をしているが、丸1日歩いて1人も会えないような状態が続いている。「住んでる形跡すらない。貸し付けるだけではダメ。自立のための相談までの態勢をとらないと」と調査員はいう。鈴木教授も「貸し付けを認める前にサポートするのが本来。見直しは待ったなし」といった。

   ドタバタと制度を作り、予算だけを確保して、実施は地方まかせという悪弊だ。かくて闇に消える額と、事業仕分けがひねり出す額とどっちが多いか…。

NHKクローズアップ現代(2011年2月14日放送「狙われたセフティーネット」)

文   ヤンヤン
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