2024年 4月 23日 (火)

坂本龍一「ストップ原発」今はおとなしくしている時ではない

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   「ぴあ」の最終号を買った。雑誌が休刊するときは、どんな雑誌でも悲しいものだが、一時代を築いたとなればなおさらである。付録に「創刊号 復刻版」がついている。昭和47年(1972年)7月10日発行とある。巻頭の「ロードショウ案内」には「ゴッドファーザー」「個人教授」「ひきしお」「華麗なる賭け」「南太平洋」などが並ぶ。行きつけだった新宿昭和館では、松方弘樹の「不良街」、若山富三郎と藤純子の「シルクハットの大親分」、鶴田浩二の「博奕打ち殴り込み」三本立て。丸の内ピカデリーでは、マドンナ役に吉永小百合をむかえたシリーズ第9作目「男はつらいよ 柴又慕情」だ。演劇、音楽、ジャズ喫茶生演奏と続く。

   編集後記には「『ぴあ』は情報だけを独立させ、映画・演劇・音楽の総合ガイド誌として位置することを目指します」と矢内廣が書いている。100YEN。渋谷よりも新宿が熱く、銀座は敷居が高く、六本木や霞町がおもしろかった時代だった。「ぴあ」の成功で次々にこうした情報誌が創刊されるが、ネットの普及で「情報はタダ」が当たり前になり、次々に姿を消していった。

「放射能警告カリスマ」突っ込まれた「アバウト」ぶり

   さて、今週も原発関連の記事が多いなかで、「週刊新潮」の「『放射能ヒステリー』を煽る『武田邦彦中部大学教授』の正体」に注目。武田教授(68)は放射能の危険性を訴え、いまやメディアに引っ張りだこで、「子供を放射能から守り抜く方法」(主婦と生活社刊)などの著作が次々ベストセラーになる「カリスマ」である。

   彼の主張は一貫している。放射線の許容量は年間1ミリシーベルト。がんになる確率は1ミリで1億人に5000人、10ミリで1億人に5万人、20ミリでは1億人に10万人増えると警告する。だが、新潮によると、1昨年の5月5日(2009年)の自分のブログにこう書いているという。

「放射線と人体の関係を研究している人の多くが『放射線を少し浴びた方が発癌性が低い』と考えている。でも、決して口に出さない。口に出すと袋だたきにあうからだが、民主主義だから専門家はおそれずに『本当の事』を言うべきだ」

   また、09年1月16日の原子力委員会研究開発専門部会ではこうも言っている。

「私は日本国にとって原子力以外にはエネルギー源が将来無いと思っています。(中略)原子力しかないことと、原子力が一番安全だということは当たり前じゃないかと」

   アレレである。その上、武田教授は放射線などの専門家ではなく、専門は資源材料工学で、原子力委員会の委員になったのも「原子炉の耐震性について知識を生かしてもらうため」で、「放射線取扱主任者」の資格を持つが、これは「放射線管理者のための資格」だと放射線影響協会研究参与の松原純子氏がいっている。

   当然ながら、インタビューに答えて武田教授は大反論するかと思えば、意外に弱いのである。例えばこうである。放射線の危険性については、「20ミリシーベルトが危険だというデータはいっぱいある。ECRRだって、福島で29万~44万人のがん患者が出ると言っている」というのだが、新潮に「ちなみに、ECRRとは欧州でグリンピースと一緒に活動し、ICRPと対立している市民組織である」と一蹴されている。

   市民組織だからいけないとはいわないが、やや根拠が薄い気がしないでもない。私は、年間20ミリシーベルトが安全なレベルだとは思わない。だが、危険性を強調するメディアに出るときは無防備でいいが、そうでないときは、論理的に根拠を示さないと安全派にこうして突っ込まれることになる。

ムシロ旗を打ち振り国会へ東京電力へ攻め上れ

   危険性を訴える学者の真贋も問われる時期にきていることは確かである。「週刊文春」では音楽家の坂本龍一が脱原発を訴えている。長年、環境問題に真剣に取り組んできていることは私も知っている。彼は、原発直後から「すぐに健康上の問題はない」と言い続けてきた枝野官房長官のことは全然信じていないが、脱原発の方向に転換した菅総理は、自然エネルギー普及の原動力を生み出すまで頑張ってほしいとエールを送っている。

   坂本はチェルノブイリ原発事故の恐ろしさを友人から聞いて、肌で感じるようになったそうだ。「核燃料処理工場からは、通常の原発が三百六十五日で排出する放射性廃棄物が、わずか一日で排出される」という文章を読んで、「ストップ・六ヶ所」というプロジェクトを立ち上げた。

   最近のものいわぬ静かな日本人へも疑問を感じていると語る。

「今は、危機の時代なんですから、国民がそんなにおとなしくしていていいはずがない。何しろ自分たちの命がかかっているんです。母親や子どもたちの命がかかっているんです。何十年も甘い汁を吸ってきた原子力村の人たちにハッキリ『ノー』を突き付ける最大の機会です。国民みんなで声を上げれば、日本のエネルギー政策を大きく変えることは絶対できます」

   私の友人のノンフィクション・ライターの吉田司もこういっている。いまこそ福島の避難所にいる高齢者たちが立ち上がるときだ。30人でも40人でもいい。彼らがムシロ旗を打ち振り、福島の人々の怒りを抱いて、国会へ東京電力へ攻め上るときだ。そうすれば水俣病闘争のときのように、日本を変えられるかもしれない。

   いま日本人に必要なのは、諦めではなく正しい怒りを国や東電にぶつけることであろう。

「もう半径20キロ圏内は戻れない」そろそろ発表する時期か

   前回は「前編」を取り上げたが、「週刊朝日」の「福島第一原発『最高幹部』が語るフクシマの真実(後編)『新工程表はデタラメ』」も注目。東電が4月19日(2011年)に発表した旧工程表は、フクイチの現場は1年半というスケジュールを出したのに、これでは菅総理が納得しないと現場の意見を無視して、本社が9か月に短縮したと明かす。

   現在の作業を妨げている最大の要因は汚染水だが、もし核燃料がメルトスルーしていると汚染水は非常な高濃度になっているから、チェルノブイリで日本の技術陣がしたように、地下にトンネルを通し、セメントやベントナイト(粘土鉱物)などを注入して固めてしまう方式にしたいのだが、国土交通省と経産省の連携がうまくいかず、適切な対応策が講じられていないと嘆く。

   また、3月11日に1号機で水蒸気爆発が起きたが、その後の政府の避難指示のやり方は拙かったと指摘する。

「現場ではもっと広い範囲、少なくとも半径50キロは避難していると思った。(中略)避難範囲が半径30キロ圏内と聞いたときも、『大丈夫か?』と思ったのが正直な印象ですね。(中略)いま原発は何とか安定していますが、放射性物質がかなり飛散しているのが実態です。避難地域の見直しが必要だと思います。実際、もう半径20キロ圏内は戻れないと、そろそろ発表してもいいんじゃないか。子どもたちが学校に通うのは無理です。最初からもっと広範囲で避難させていればと悔やまれます」

   この言葉を菅内閣の面々に読ませたいと思うのは、私だけではないだろう。

江川卓の巨人監督説「借金がネック」

   この他のお勧め記事。モノクログラビア「嵐・二宮と佐々木希のラブラブ・ツーショット」(文春)。友人宅に来たとき撮られたものだというが、リラックスした二人が微笑ましい。

   同じ文春のカラーグラビア「伝統の花街 飛田新地探訪」もとてもいい。特別に撮影許可が出されたそうだが、大正時代に日本最大といわれた遊郭の雰囲気がいまに伝わっている希有な街の姿が活写されている。一見の価値あり。行ってみたくなる。

   「なでしこジャパン」は日本中を感動に包んでくれたが、これを扱った特集はどれもこれも似たり寄ったり。

   サッカーの陰に隠れて盛り上がらないプロ野球だが、「アサヒ芸能」が巨人の次期監督に江川卓の名前が「急加速」していると書いている。沢村投手以外見るべきところがない原巨人だが、このままいけば監督交代は間違いないところだろう。

   だが、江川本命説には、私は疑問がある。それは、生前、氏家齊一郎・日本テレビ会長が私に漏らしていた言葉だ。江川にしたい気持ちは十分あるが、彼が不動産投資などで作った莫大な借金がネックだという。巨人は桑田真澄の借金を肩代わりしてやったから、とても江川の面倒までは見られない。それさえなければ、江川はとうに巨人の監督になっていただろう。監督というのは選手と比べると年棒ははるかに低い。借金の肩代わりなどの条件を持ち出さず、低い年俸でも監督をやりたい。江川がそう言えば可能性なしとはしないが、どうなりますか。

元木昌彦プロフィール
1945年11月24日生まれ/1990年11月「FRIDAY」編集長/1992年11月から97年まで「週刊現代」編集長/1999年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長/2007年2月から2008年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(現オーマイライフ)で、編集長、代表取締役社長を務める
現在(2008年10月)、「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催。編集プロデュース。

【著書】
編著「編集者の学校」(講談社)/「週刊誌編集長」(展望社)/「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社)/「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス)/「競馬必勝放浪記」(祥伝社新書)ほか

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