人気の歯科インプラントで死亡事故―儲け優先で未経験・未熟医師が治療

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   失った自分の歯の代わりに、人工の歯を取り付けて噛む力を取り戻す歯科インプラント治療は、いまや歯を欠損した人の1割が装着している。従来の入れ歯やブリッジと比べ、食生活を向上させる夢の入れ歯のはずなのだが、治療後に歯や口腔の痛み、しびれ、麻痺などさまざまな後遺症に悩み、顎の動脈が切れて患者が死亡する事故まで起きている。十分な治療の技量もない歯科医が、高収益を求めて無理な治療を行っている背景があるからだ。

急増する「国民生活センター」相談

   インプラント治療は歯が欠損した部位の顎の骨にチタンやチタン合金製でできたネジ状のインプラント体(人工歯根)を埋め込み、それを支台に人工の歯を取り付ける治療法だ。入れ歯やブリッジに比べて噛む力が元の自分の歯と同じように戻り、長期間利用できることから治療を受ける人が増えている。

   ところが、国民生活センターが2006年度から5年間に2000件以上の相談が寄せられと発表した。このうち、インプラント治療で被害を受けたトラブル相談は343件に達し、内容は歯や口腔の痛み、腫れ、しびれや、痛みが取れず夜眠れない、食べ物を噛めず体調を崩したなどさまざまだ。

   NHKが歯学部のある27の大学病院を対象にアンケート調査した結果、インプラント治療後の不具合を訴えてた患者がこの2年半で2700人以上にのぼっていることが分かった。背景として大学病院が挙げた理由は、「最初に治療した歯科医院での知識、技量不足」が86%、「難しいケースにもかかわらず無理な治療を行った」が76%にのぼっている。

メーカー主催の4日間講習で年間2500万円増収

   歯科医院は知識、技量もないのになぜインプラント治療に走るのか。背景の一つは歯科医院の過剰。コンビニの1・7倍という。過当競争による収益低下で、健康保険の効かない自由診療、つまり歯科医の自由裁量で価格が設定できるインプラント治療で収益アップを図る歯科医が増えたのだという。しかも、大学できちんとインプラント治療を学べるようになったのはごく最近で、多くの歯科医師はメーカーが主催する4日間程度の講習会を受けるだけだ。

   インプラント治療を導入したある歯科医は、治療費を1本40万円に設定し、インプラント治療だけで年間約2500万円の利益があがるようになったという。その院長は「インプラントをやっていただかないと経営が成り立たない。インプラントは歯科医師の救世主。打てば打つほど潤います」と豪語する。

多くの歯科医が大学で受講経験なし

   国谷裕子キャスターが「今のままではインプラント治療の信頼が失墜しかねませんね」と東京歯科大の小宮山彌太郎教授に聞く。小宮山教授はインプラント治療の第一人者で、この治療法を29年前に日本に紹介した。

「歯科学生への講義は10年前から始まっているが、実習を伴った教育はどこの大学でも最近になってからやるようになりました。また、そういう教育を受けていない歯科医師もインプラントに目を向けるようになって、どこで学ぶかというと、業者主催の講習会だけ。耳触りのいいことだけ聞いてやってしまう」

   国谷「インプラント治療はこれまでの歯科治療とは大きく異なる治療と捉える方がよろしいのではないですか」

   小宮山教授「今までの歯科治療の範囲を超えた部分が多い。歯科医のわれわれだけでは解決できない全身状態を把握できる力がいる」

   先週12日(2012年1月)に関係する5つの学会幹部が集まり、来年度をメドにようやく安全のためのルールづくりに取り組むことが決まった。「技量を持っていない歯科医師にはこの治療ができないようにしてほしい。公的な権限を持った所が認定するような仕組みが必要ではないでしょうか」という国谷に、小宮山教授は「日本のように、一人の歯科医師が多くの分野を手掛ける場所ではそれが求められると思う」と答えた。

NHKクローズアップ現代(2012年1月18日放送「歯科インプラント トラブル急増の理由」)

モンブラン

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