2024年 4月 24日 (水)

「東電補償金暮らし」浸かり始めた避難住民―帰村して働くより今でいい

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「震災直後は、毎日を生き抜くことが全てだった。避難所では、互いの無事を喜び合い、家族を失った悲しみを共有し合った。やがて仮設住宅へと移転し、衣食住が整うと、死を考える自分がいた。寝て起きてメシを喰って、それを繰り返す日々。この先に希望を見出せず、なぜ自分は生き残ったのかと自問している」

   宮城県気仙沼市の仮設住宅に暮らす60代の男性は「週刊文春」の「大津波から一年TVでは流せない『被災者の肉声』」で、現在の心境をこう語っている。東日本大震災から1年を前にして各誌が特集を組んでいる。致し方ないことだが、似たり寄ったりの企画の多い中で、目にとまったものを紹介してみよう。

「与えられることに慣れ働く意欲や耕作意欲を失ってしまう」(村長)

   「週刊新潮」の大震災ワイドに、被災地の瓦礫受け入れを拒否しているさいたま市のスーパーアリーナに近い住宅街の地下に、核廃棄物ドラム缶が4万本も置かれているという記事がある。この廃棄物が発覚したのは13年前。放置したのは三菱マテリアルで、同社の関係者が事情をこう話す。

   「昭和63年頃まで、三菱マテリアル(当時は三菱金属)や三菱原子力工業などが、ここで核燃料や原子炉などの研究を行っていたのです。日本初の原子力船『むつ』の原子炉がここで設計されるなど、大宮の施設はいわば日本の原子力研究の一大拠点でした」

   その後、親会社に吸収されたり茨城県東海村へ引っ越したりして、残ったのが三菱マテリアルだった。新潮は瓦礫受け入れを拒否しているさいたま市に対して、こう皮肉くる。 「アリーナの横にある大量の核廃棄物は、いずれどこかに処分を頼まなくてはならないかもしれない。そのとき何と言ってお願いするのだろうか」

   絆、絆と掛け声ばかり掛けるが、住民の反対から瓦礫受け入れを表明しているのは4自治体しかないのはおかしいと新潮が批判している。もっともである。

   反対に、おやと思うのが「『補償金リッチ』で『避難準備区域』解除でも自宅に帰らない」という記事。広野町の例を出し、人口約5500人のうち地元に戻った住民は約250人に過ぎないのは、東電から避難者に対して補償金が出るからで、帰宅するとその支給が打ち切られてしまうためだと、帰らない住民を難じている。もはや補償金はある種の既得権になっていて、そうしたカネを使って遊ぶからパチンコや競輪場が賑わっていると伝えている。そうした村民に「帰村宣言」を発表したのは川内村遠藤雄幸村長である。

「与えられることに慣れ、便利な都市生活を感じている村民が、働く意欲や耕作意欲、故郷に戻りたいという思いを失ってしまうのではないか、と危惧しています」

   南相馬市の櫻井勝延市長もこう話す。

「復興とはふるさとに戻り、仕事をし、生活することです。東電の補償金がその妨げの要因になっていることは間違いない。(中略)生活を取り戻そうと努力する住民にこそ、補償金は使われなければならないのです」

   もっともな意見だと思うが、ならば国や自治体が東電に働きかけて、地元へ戻って昔の生活に復するまで補償金を払うことを求めたらいいのではないか。文科省が放射線量の数値が下がったといくら発表しても、不信感をもった住民の不安を払拭することはできない。その不安感に対する慰謝料的な意味合いで、東電はこの人たちへの補償を続けるべきだと思うが、いかがだろうか。

被災地・飯舘村のベストセラー「までいの力」って何だろう

   「週刊ポスト」はぶち抜き85ページの大特集「被災地と原発の真実」を組んでいる。放射能と原発については、これまでの主張を繰り返していて目新しい情報はないが、ポストが震災以後一貫して続けてきた被災地の書店のその後を追った「3・11から1年 復興の書店」を興味深く読んだ。復興へ向けて歩み出した書店で売れている本は、他の土地で売れている本とはひと味違う。『大きな字の常用国語辞典』は年配者が買い求めるそうだ。仮設住宅ではいくつも鍋を持つわけにはいかず、圧力鍋が売れたそうで、圧力鍋のためのレシピ本も売れた。

   お世話になった人たちへ手紙を書こうと『手紙の書き方とマナー』。『10年日記』のような将来を設計する本も問い合わせが多かった。釜石の遺体安置所を巡るルポ『遺体』は、死者がどう処置されたのか知るために買われたのではないかと、釜石市の書店店長が語っている。飯舘村の日常を紹介した『までいの力』も読まれている。

「までいとは『思いやり』といった意味で使われる方言です。(中略)飯舘村はいま、人が住めない場所になってしまいましたが、『までいの力』があればいつか必ず立ち上がれると思う」(飯舘村の書店の元副店長)

   岩手県山田町の「大手書店」は、昨年6月から小さな店舗で営業を再開した。本も文房具もなく、当初はお祭り用のクジや景品を並べていたという。書店の娘・大手恵美子はこう語る。

「自分がこの町に残って何ができるかと考えた時、やっぱり本しかないという思いがあったからです。できることと言えば、考えることしかなかった。駄目だな、やんなきゃな、ってずっと考えていたんです」

   釜石で一番古い書店だった「桑畑書店」はかつて70坪あったが、いまは9坪。店主の桑畑眞一は瓦礫の中から見つけ出した定期購読者のリストを頼りに、病院や美容院などを回った。津波で流されたこの辺りは人が少なくなってしまったが、ノンフィクション・ライターや市長を招いてシンポジウムや絵本の読み聞かせの会などをやっている。気仙沼市大槌町のショッピングモールに昨年12月22日、化学薬品メーカーで働いていたサラリーマン夫婦が素人書店を始めた。その名は「一頁書店」

「本の一頁目はとても大切ですよね。最初の一歩という気持ちを大切にしていこう、と思ったんです」

そう妻の木村里美が語っている。

   南相馬市の「おおうち書店」の店主・大内一俊は、同市が屋内避難を指示されていた3月に書店を続けようと思った。店のシャッターを開け、床に散らばった本や雑誌を棚に戻していると、街から避難しなかった人たちが少しずつ集まってくるようになったからだ。客は4分の1に減って、若い女性や子どもの多くが避難したため、女性誌やファッション誌は売れなくなったが地図が売れるようになった。お客の数は減っているのに、書店の売上げは伸びているという。他に開いている店がないことと東電からの賠償金があるため、震災前より売れる本の単価が高くなり、週刊誌を3冊も買い込んでいく客がいるそうである。

   飯舘村にある村営書店「ほんの森いいたて」には書店の窓に「きっといつか再オープンするぞ!!」と書いた紙が貼られている。IAEAが飯舘村で高濃度の放射性物質を検出して発表したのは3月30日だった。元副店長の高橋みほりはこう話す。

「閉店するとき、絶対また会おうね、再開したら買いに来るからねと言われながら、みんなと抱き合ってお別れしたんです。それだけ愛されていた本屋なんだなって思ったし、震災からの短い期間だったけれど、続けてきてよかったと感じました」

   こうした人たちに支えられて本や雑誌が読者の手に届き、読まれていることを、出版に携わる人間一人ひとりがもう1度真剣に考える必要があるはずである。

「末世」にはこれを読め!正岡子規「病牀六尺」

   今朝(3月1日)も都内で震度3の地震があった。NHKによれば、これは3・11の地震の余震だそうだ。ここへきて地震の回数が増えた気がする。「週刊現代」によれば、震度7の地震が起こったら、ドラム式の洗濯機の中にいるようで「助からない」そうである。

   最近「末世」という言葉がよく使われるようになった。戦乱の時代に法然が出てきて貧しい民たちに一心に南無阿弥陀仏と唱えることを説いた、あの時代と現代が似ているというのだ。たしかに、阪神淡路大震災から東日本大震災と続き、そう遠くないうちに首都圏直下大地震や富士山噴火まで起こるといわれているのだから、日本全体がうつ状態にあるといってもいいだろう。明日への光が見えない中で日々どう生きるかが、われわれ一人ひとりに問われているのだろう。

   こんなとき私は正岡子規の「病牀六尺」を読み返す。病のため寝たきりの子規には病牀の六尺さえも広すぎて、蒲団の外までも足を延ばすことができない。そのうえ激しい痛みが彼を襲う。

「病牀六尺、これが我世界である。(中略)それでも生きて居ればいひたい事はいひたいもので、毎日見るものは新聞雑誌に限って居れど、それさえ読めないで苦しんで居る時も多いが、読めば腹の立つ事、癪にさはる事、たまには何となく嬉しくてために病苦を忘るるやうな事がないでもない」

   子規の生涯35年のうち、7年間は結核のために床に伏せっていた。こうした絶望的な中でも子規は人生を楽しみ、明るさを失わなかった。そうした子規の生き方に学ぶところが多いからである。

「バラエティー番組」人身事故続発―瀕死のやけども知らん顔

   オセロ中島とかいうお笑い芸人が女霊能者にたぶらかされたり、マンションの家賃を滞納して追い出されそうになったりしていることを、ワイドショーは連日騒いでいるが、何でこんなものがニュースになり、大勢の報道陣がマンションの前に張り込んだりするのかわからない。いい年をした大人なのだから、ほっとけばいいのだ。餓死したとて自己責任である。

   それよりもテレビのバラエティ番組での人身事故が多発しているのに、いっこうにそうしたバカ番組を止めようとしないテレビのアホさ加減を追及している文春の「フジテレビがヒタ隠す『火渡り』で老人に重傷を負わせた最低の番組」のほうに注目である。

   2月2日、上越国際スキー場の150メートルのハーフパイプ用の急斜面をパンツ一丁のお笑い芸人やすが水上スキー用のゴムボートで滑り降り、物置小屋の屋根に激突した。やすは腰椎破裂骨折、両下肢マヒなどの重傷を負った。この番組はフジテレビの「とんねるずのみなさんのおかげでした」だった。

   テレビではタレントにロケット花火数千本を背負わせて着火し、1か月の火傷を負わせたり、クレーン車に吊り下げられたスタッフが落下して腰椎骨折したりという事故が絶えない。

   今回問題になっているのはやや古い話だが、03年末から04年にかけて放送されたフジテレビの「退屈貴族」で起きた深刻な事故である。出演者は一般人の74歳の独居老人。都内の河川敷。灯油がまかれて並べられた段ボールが10メートルほど。そこに火がつけられ、パンツ一丁の老人にそこを渡らせたのである。少し歩いた老人は激痛に耐えきれず横に逸れた。そのときすでに火傷は足裏から太ももまで及んでいたという。老人は持参した軟膏をつけただけで歩くこともできず、ディレクターらが背負ってタクシーに乗せ自宅に送った。2万円の出演料を払っただけで、何ら火傷の処置はしないままディレクターらは帰社してしまったのだ。

   その後、老人の容体が悪化して老人の兄によって救急車で運ばれたが、火傷は表面積の3割近くまである重篤なものだった。警察が病院側の通報でフジテレビ側に問い合わせをしたが、フジテレビ側は「該当するロケはない」と回答し、警察は自傷事故として処理してしまった。老人は生死の境をさ迷う。信じられないことにフジテレビは撮影から1か月半近く経ってから、そのシーンを「東洋のランボー」と銘打って放送するのである。 番組を見た視聴者からの「やり過ぎだ」という電話で初めて、フジテレビはそうしたロケがあったことに気づくのだから、このテレビ局の危機管理はなっていない。

   結局、この件で番組スタッフの事情聴取も処分もなかったそうだ。フジテレビは事故を隠すことを選択し、社員はこうした事故があったことさえも知らないそうである。老人は事故から4年後ぐらいに腎不全で死亡する。記事によると「腎機能の低下は火傷によってもたらされたもの」だという。記事はこう結んでいる。

「事故の検証を怠って隠蔽し続ける限り、同じことが再び繰り返されるに違いない」

「週刊文春」先週号スクープに医師クレーム―知識欠いた杜撰記述

   最後に、先週のこの欄で文春の「衝撃スクープ 郡山4歳児と7歳児に『甲状腺がん』の疑い!」を取り上げ、最後にこう書いた。

「この記事は重要な問題を告発しているのだが、残念ながら取材が緩いために読んでいてインパクトが弱い。母親が仮名なのは仕方ないとしても、郡山の子どもに甲状腺異常を発見した北海道の内科医の名前が出ていないのはどうしたことなのか。こうした記事を書く場合、信憑性を担保するためには実名が必須である。内科医は実名を出すことで何か不都合なことでもあるのだろうか」

   内科医から文春側にクレームがあったのだろう。今週号で「私はこう考える」という検証記事をやり、医療ジャーナリストの伊藤隼也とジャーナリストの青沼陽一郎に語らせている。2人の次の言葉に、私が書いたようにこの記事の危うさが透けて見える。

「記事に関して医師側と齟齬をきたす結果となったのは拙速の感が否めない」(伊藤)
「先週号の週刊文春記事は、甲状腺がんについて、正確な知識を欠いていた部分があったのではないか。(中略)『悪性転化』という現象があるのに、『甲状腺がんの疑い』という言葉ですべてを論じてしまったことで、検査結果の考察に不明瞭な部分が残ってしまった」(青沼)

   ちなみにこの記事を書いたのは「自由報道協会」なる団体のメンバーだそうだ。ノンフィクションはどれだけ取材に手間暇かけ、検証したかが問われる。心してもらいたいものだ。

元木昌彦プロフィール
1945年11月24日生まれ/1990年11月「FRIDAY」編集長/1992年11月から97年まで「週刊現代」編集長/1999年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長/2007年2月から2008年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(現オーマイライフ)で、編集長、代表取締役社長を務める
現在(2008年10月)、「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催。編集プロデュース。

【著書】
編著「編集者の学校」(講談社)/「週刊誌編集長」(展望社)/「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社)/「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス)/「競馬必勝放浪記」(祥伝社新書)ほか

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