感涙にむせぶ客席に漂ってきた「あの臭い!」そりゃないよォ…

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   がさごそがさごそ。この瞬間って一番幸せな時なのかもしれない。中に何が入っているのか知っていてもワクワクワクワク。ビリビリと包装紙を破ってしまおうか、それとも丁寧にテープをはがして慎重に開けていこうか。そんな開け方を考えるのもまた楽しい。

   ガッチリした業務用テープでプロテクトされた荷物は、手で抱えられる重さながら、高さ40センチほどある。粘着力の高いテープを勢いよくはがして、いよいよ蓋を開ける。すると、中にはひと回り小さな箱が収まっている。おや、まだその姿を見せてはくれぬのか。それならばとむんずと箱を取り出す。が、ピッタリに収納できるよう設計されているのか、大きな箱から小さな箱を引っ張り出すのにひと苦労。「やい、まだ嫌がるのか」「堪忍して下さい、お代官様~~」なんて、嫌がる乙女犯す悪代官のような(そんな設定はあるのだろうか)気分でやっとのことで小さな箱を取り出した。いよいよ観念しろとばかりに、まるで着物をはぎ取るかのように箱貼られたテープをはがす。

   が、またまた小さな箱の登場。ここまで来るとちょっとウンザリ。お代官様ごっこも飽きてくるので、力任せに箱を取り出した。そうしてマトリョーシュカのようにして箱から出てきたのがアロマ機能付き空気清浄機だ。先週さんざん悩んだ挙句にやはり買ってしまいました。最初は大きな箱に入っていたけれど、中身はボウリングボールほど。大切に包装された箱入り娘のような清浄機をさっそく使わなくちゃ! 全てを準備しスイッチオン。ブーンという軽いモーター音とともに、ふんわりと甘い香水のような香りが漂い始めた。買ってよかった! この香りに包まれながらこれから生活するのかとおもうと、新生活を始めたような錯覚におちいる。清々しく気持ちがいい香りがする部屋で、気分一新、頑張れそうな気がする。

隣のビルはまさにランチタイム―ニンニクだ、玉ねぎだ、ラーメンだ

   さて、このにおい。気分をリフレッシュさせたり落ち着かせてくれる一方で、やっかいな存在になることも少なくない。ある劇場でのことだ。難病を抱えた子供のけなげな姿を描いたストリートプレイで、満員御礼の客席では「ズズッ、ズズッ」と鼻をすする音が聞こえてくる。涙でハンカチをおさえるどころじゃすまされないような悲劇なのだ。私もつられて涙がこぼれそうになり、あわててハンカチがないかバッグの中を探そうと思ったその時、フッと鼻にツンとくるものが。これは涙ではない。冷静になってみると、やはり何か臭いがする。鼻をすすらずにクンクンさせてみる。どこかで嗅いだ事のある臭いである。クンクンとかいでいるとお腹がキュルル~っとなった。

   「あ、これニンニクの臭いだ。それに玉ねぎを炒める臭い。肉と一緒に炒める時の臭いだ」なんと悲劇を演じている会場に炒め物の臭いが漂ってくるのだ。

「おかあさん、僕もう助からないって知っているんだ。だから僕のために無理しないで」

   若手俳優のお涙ちょうだい演技に客席はグスグス。けれど私はクンクン。同じように感じた人は私だけではないだろう。せっかくの涙もどこへやら。

   これってないよねぇ。一幕が終わり休憩があったので、さっそく臭いの元をつきとめようと会場を出た。犯人は正面の入口とは別に隣り合っているファッションビルのフロアに続く出口があり、その先がまさかのレストランフロアだったのだ。ラーメンからイタリアン、和食に中華とさまざまな店舗が遅いランチタイムの営業中で、この臭いが劇場の客席にまで届いていたのだ。こんなことってあるのねぇ。そんなむしゃくしゃした気分のまま芝居は終了した。芝居の内容よりも印象的だった臭いは、鼻の奥でまだ消えずにこびりついている。さぁ、こんな時はいい香りのする部屋にさっさと帰りましょうか……。

モジョっこ

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